劇団四季の舞台は、学生時代に『キャッツ』にハマって以来、何だかんだ文句を言いながらも結構色々と観に行っている。というのも、海外人気ミュージカルの日本公演は、ほとんど劇団四季の独占状態にあるからだが、目下ロングラン中の『ライオン・キング』も例外ではなく、大阪・MBS劇場へ。丁度今日は、川を挟んで向かいにある大阪城ホールでモーニング娘とその仲間達の全国ツアー初日だそうで、人の流れは大方そちら側の雰囲気である。 冒頭、客席通路からアフリカの動物たちが続々と舞台に登場するのを見て、思わず快哉を叫ぶ。操り人形やら着ぐるみやら民俗アートやら全身タイツやら、様々な工夫を凝らした動物たちはそれ自体、人間が扮するユニークな動物もどきに過ぎないはずなのに、その動きや醸し出す雰囲気が、正しく動物そのものなのである。各動物の体のラインや佇まいを見事に抽象化し、なおかつ、俳優達による独創的なパフォーマンスとして見せている。リアルに再現された動物ではなく、象徴としての動物を表現する方向だ。 演出だけでなく美術や衣装のデザインまで担当しているジュリー・テイモアの仕事には、ただただ驚嘆。保守的なイメージが強かったディズニーが彼女の起用を決めた時、「前衛アートの旗手が商業アートに大抜擢された」と誰もが驚いたものだが、実際に舞台を観ると、前衛がポピュラリティを獲得したような楽しさがあちこちに散りばめられていて、壮観である。 テイモア女史は数年前、指揮者・小澤征爾が主催するサイトウ・キネン・フェスティヴァルで、ストラヴィンスキーの『エディプス王』を演出した事があったが、その当時から彼女は、歌手の顔と、頭に乗せたマスクの両方を観客に見せるというスタイルを採っていた。そのアイデアは今回も活かされているが、舞台美術にも斬新な趣向が満載。オープニングで床から回転しながらせり上がってくる岩山や、背景の日の丸みたいな太陽、舞台手前に押し寄せて来るヌーの大群(どうやって表現しているかは舞台を観てのお楽しみ!)などなど。サバンナの草原も、両手と頭の上に盆栽風の四角いミニ草原を載せた俳優達がふらふら踊る事で象徴化されている。 このミュージカルには、プロデューサーや演出家から技術スタッフに至るまで、(作詞家ティム・ライスを除いて)ミュージカル経験者がほとんど参加していないが、その代わりに、映画音楽の人気作曲家が三人も関わっているのが面白い。一人は勿論、アニメ版のスコアでアカデミー賞&グラミー賞に輝いた売れっ子、ハンス・ジマーだが、他に『スピード』『ツイスター』のマーク・マンシーナがミュージカル版アレンジ、プロデュースを務めて大活躍を見せる他、『ホーム・アローン3』『仮面の男』のニック・グレニー・スミスがオーケストラの指揮を担当(劇団四季のオケは、例によって生演奏ではなく録音だが、今回は珍しくパーカッション奏者二人だけ生で演奏)。 オーケストラ・スコアの素晴らしさには一聴して魅了されるが、今回もジマーお得意のクラシカルな哀愁スコアが健在。特に、凛々しいテーマ曲の感動的な事と言ったら! ミュージカル版ではこのメロディに歌詞が付いて、ソングナンバーにもなっている。さらに、ヌーの大暴走シーン。普通ならこういう場面、アクション系スコアでスリリングに盛り上げる所だが、ジマーはドンドコドコという野性的なドラムのリズム(ヌーの大群による地響きを象徴)の上に、深いグラデーションに富んだクラシック風のコードを乗せる。だから、迫力満点の音楽であると同時に、その奥から、何とも言えない哀しい響きが聞こえてくる。 ソングナンバーのほとんどを作曲しているエルトン・ジョンは、個人的にそれほど好きなアーティストではないが、このミュージカルに関してはなかなかの名曲揃い。ドラマティックで多彩な曲想が展開される“Be Prepared”、次々に曲調を変化させながらタンゴへと展開する“The Madness of King Scar”、有名なバラード“Can You Feel the Love Tonight”、ハイエナ達のナンバー“Chow Down”、どれもミュージカルらしい雰囲気が良く出ていて、これらをエルトン・ジョンが書いたとは、どことなく意外な感じもする。 他では、マンシーナが作曲した“He Lives in You”も素晴らしく、シンプルながら胸を打つメロディがいつまでも耳に残る。マンシーナは映画音楽でもこういう、ケーナの音が似合いそうな、アフリカ系リズムに民謡風のひなびたメロディを乗せた音楽が得意みたい。個人的に不満なのは、オープニングの“Circle of Life”。アニメ版の時から大好きなナンバーだったが、これはジマーによるオリジナルのアレンジの方が、和声の色彩感、スケールの大きさ共に数段良かったと思う。ミュージカル版の方は小じんまりした雰囲気で、誠に残念。 |