言わずと知れたテネシー・ウィリアムズの名作だが、私はマーロン・ブランド主演の有名な映画すら観ていないので、この作品自体、初めてである。原作は読んだが、個人的には同じ作家の『ガラスの動物園』の方が好きだ。蜷川幸雄はかつて“欲望という名の市電”というタイトルで本作を演出していて、確か舞台前面の巨大な網に大小様々の蝶の標本を貼付けたようなセットを写真を見た記憶があるが、今回のは極めてオーソドックスな演出で、原作のリアリティをそのまま追求したようなセット。 客席左右のバルコニーにスタンバイした二人のトランペッターによる生演奏が流れると、いかにもアメリカ南部風のうだるような暑さと、けだるいムードが漂ってくるよう。トランペットは、場面転換の度に即興風の演奏を繰り広げるが、左右二人いるというのがスタイリッシュで斬新。もっとも、全体的には鬼面人を驚かすような奇抜な演出は避けている様子だが、粗野なスタンリーを堤真一が演じ、優しくて控えめなミッチを六平直政が演じるのは、結構サプライズかも。 大竹しのぶの緩急自在なセリフ回しは凄まじい。時折現代風のギャグみたいなのもアドリブっぽく盛り込んだりするのに、ブランチというキャラクターの実在感は全く揺るがない。やっぱりこの人、ものすごく上手い女優さんなんだな、と妙に得心。セリフの抑揚というか、リズムの取り方も音楽みたい。「テネシー・ウィリアムズは大好き」と公言する蜷川幸雄だが、『ガラスの動物園』はぜひ上演して欲しい。チェーホフ作品の演出の仕方を見ていると、『ガラスの動物園』も素晴らしい舞台になりそう気がする。 |