蜷川お得意のギリシャ悲劇。彼の代表作とも言える『王女メディア』はもとより、この『オイディプス王』も86年に築地の本願寺で大規模な野外公演が行われ、テレビ放映された事がある。今回は、築地公演のように百人ものコロスを出すというようなスペクタクルはなく、『王女メディア』のように極端に様式化された豪華絢爛な衣装とメイクもなく、シンプルな舞台の上で、適度な人数のコロスを伴ってという、さらに凝集に向かった演出。とは言っても、コロスがみんな笙を吹きながら歩いて来るとか、オイディプスの体から伸びた幾筋もの紐を客席の頭上にまで伸ばすとか、斬新なアイデアは盛り沢山。 今回の目玉は、やっぱり狂言師・野村萬斎の出演。大らかなユーモアに溢れた狂言とは対照的に、重厚な悲劇性を背負ったオイディプスをどう演じるのか興味津々だったが、さすがの存在感を示し、何かが乗り移ったかのような激しい芝居で、別人の感。怒り狂って四本の柱を打ち倒す場面など、凄まじい感情表現で客席を圧倒するし、憑かれたように悲劇へ突き進む姿は、崇高ですらある。それに又、声がよく通ること。麻美れい、吉田鋼太郎など、他にもうまい役者が揃っていて、当然みんな貫禄の名演技だが、野村萬斎の特異なオーラは、これはもう持って生まれたものなのかも。 謎解きの部分を緊迫感たっぷりに盛り上げて、スリルを強調しているのも面白いと思ったが、個人的にはこの劇、全てがつまびらかにされ、悲惨な血まみれ状態となった後のオイディプスによる一人芝居がちょっと長過ぎるように思う。人気の雅楽ミュージシャン、東儀秀樹を音楽に起用しているのも話題の一つだが、彼は蜷川幸雄久々の映画作品、『青の炎』でも音楽を担当する予定だ。 |