マクベス

作:ウィリアム・シェイクスピア

訳:松岡和子

演出:蜷川幸雄

出演:唐沢寿明、大竹しのぶ、六平直政、田村真、大石継太、他

2002年11月2日 大阪、近鉄劇場

 ついに蜷川幸雄のマクベスが再演。しかも、彼の代名詞みたいなあの“NINAGAWAマクベス”とは全く違う新演出に作り直し、東京、大阪の後、ニューヨークでも上演するという。主演も、今をときめく唐沢寿明と大竹しのぶ。

 どことなしにエスニックで不気味な音楽と共に幕が開くと、辺り一面、茶色く枯れた蓮の葉っぱ。役者達は蓮の葉をかき分けて舞台奥から登場する。ベトナム戦争的な雰囲気だが、馬に乗った武将達が登場した時は一瞬、本物の馬かと思った。舞台セットに巨大な鏡を使っているが、これがマジックミラーのように透けたりもして、場面転換に大きな効果を発揮している。蜷川演出は、クリエイティヴなアイデアも凄いが、こういう、実用的なアイデアが縦横無尽に盛り込まれていて、いつも感心する。これによって、次々と畳み掛けるようにスピーディな場面転換が実現されている。

 格調高い芝居で大熱演の唐沢さんだが、大竹しのぶの恐るべき存在感には叶わない。こんなマクベス夫人を見てしまうと、この先数年、これを越えられる女優さんは現れないんじゃないかと思ってしまう。南果歩や芳本美代子が演じたマクベス夫人みたいに、一般家庭の日常的シチュエーションを想起させて、逆に“今、そこにある”感じの恐ろしさを表す事も出来るが、作品本来のキャラクターに真正面から挑むような役作りの方が、よほど難しいに違いない。ちなみに、マクダフのキャスティングには元々、勝村政信がアナウンスされていたが、どういう訳か大阪公演では、田村真という若い役者さんに交代していた。パワフルな勝村マクダフが見られなかったのは残念だが、この田村という人、思いがけずも好演。今後も注目していきたい役者さんである。

 蓮の花咲く池や、鏡で増幅されて見えるテーブルと燭台の列、終幕で舞台中央に揺れる巨大なシャンデリアも効果的だが、マクベスといえばやっぱり“バーナムの森”。魔女の予言通りマクベスの陣営に向かって動き出すバーナムの森は、実は敵軍の兵士達が木枝でカモフラージュしたものなのだが、舞台ではこれがどう表現されるかが見ものなのだ。日本の戦国時代に設定を置き換えた旧演出は、桜吹雪の中、桜の枝を持った武士達がスローモーションで動くという耽美的なものだったが、今回はなんと、舞台正面を巨大な木々が塞ぐという物量攻勢。やられた、こんな手があったか。天井近くまである青々とした巨大な森が、舞台を埋め尽くしてワサワサ揺れている。思わずのけぞった。こりゃ、叶わないや。ニューヨークでの成功を祈ります。

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