蜷川シェイクスピアの新作。今回は、あまりに荒唐無稽でご都合主義的なストーリーのためか、あまり上演されない『ペリクリーズ』である。国から国へ、次々に舞台を移し千変万化する展開、主人公を翻弄する波乱に富んだ数奇な運命、そんな中で、死んだ筈の家族はなぜか蘇り、思いがけぬ状況で奇跡的に再会を果たす。演出家も出演者も一緒に観に行った友人も、みな口を揃えて「到底受け入れ難いストーリー」だと言うが、私は好きだ。荒唐無稽で何が悪い。これは、シェイクスピア時代のアドベンチャー物なのだ。シェイクスピアの劇にはそもそも、大なり小なりこういった無理な展開は付き物である。 演出家は、これはまともに演出する訳にはいかないと思ったそうで、全体を、怪我人達が理想として夢見た物語だという構成に仕立て上げる。舞台の上には水道の蛇口が無数に乱立し、そこからジャーっと水が出ると共に、客席通路から包帯を巻いたり松葉杖を付いたりした人達が集まってくるという趣向。劇の最後では再び、きらびやかな衣装を着ていた役者達がボロをまとった怪我人達の姿に戻る。 物語は、琵琶をつまびく狂言回しの二人(原作では語り手は一人で、男性だが、この舞台では白石加代子が演じている)によって語られるが、途中経過を巨大な三面鏡と文楽人形を使って説明する所など、かつての蜷川スペクタクルをも彷彿させる。衣装も和風なのか無国籍なのか、とにかく個性的で絢爛たるデザインで、常に観客の目を楽しませてくれる。天性の資質を持った俳優・内野聖陽以下、ベテラン勢が顔を揃える役者陣もお見事。 |