好評を博したらしいニナガワ“リチャード三世”の再演(私は初めて)。それにしても、シェイスクスピアはピカレスクがうまい。『マクベス』がそうだし、『オセロ』も『タイタス・アンドロニカス』でも悪役が光っている。畸形に生まれついたコンプレックスをバネに、巧みな話術と冴え渡る悪知恵で周囲の人物を葬り去ってゆきながら、王座へとジリジリ昇り詰めるリチャード。そんなアンチ・ヒーローを、シェイクスピアは何と軽妙に、生き生きと描写する事か。 この劇は、かつて平幹二郎主演の舞台をテレビで観た事があるきりだが、今回も演出が凄いので、思わず引き込まれてしまった。冒頭、ロックの音楽が流れると同時に、一頭の馬が舞台中央に躍り出てきて、そのままバタンと倒れてしまう。そこへ空から、鳥やら、豚やら、馬やら、様々な動物の死体がバタバタと雨のように降ってくる。うわ〜、又してもやられたぁ! 市村リチャードは、個人的に好みの演技じゃない事は別にして、すごく説得力があるというか、この悪の権化みたいな男を、むしろ茶目っ気のある魅力的な人物として軽快に造形している所がいい。ほとんどコミカルに描かれている場面もある。前半部のラストでは、嫌々ながら仕方なく、というフリをして市民から祭り上げられるリチャードだが、客席通路に散らばった市民役の俳優達と共に、観客までが万歳三唱に加わってリチャードに拍手を送ったのには驚いた。この男の腹の内を知っている観客までが、彼を称賛してしまったわけだ。となるとこの演出、大成功という事かも。 いつも私は不満を感じる宇崎竜童の音楽も、今回はすごく印象的。トレヴァー・ホーンとまでは言わないまでも、もう少し先鋭的なサウンド作りだったらと思わなくもないが、静かな箇所でもヒップなリズムに不穏な和音を乗せて微妙な雰囲気を出したり、なかなかクールだ。もっとも、インタビューで「今回はドラムンベース」などと発言しているが、若いつもりのおいちゃんには悪いけど、それってちょっと違うような‥‥。 |