夏ノ夜ノ夢

作:ウィリアム・シェイクスピア

訳:福田恒存

脚色:小池竹見

脚色・演出:加納幸和

出演:尾上松緑、佐藤江梨子、保田圭、海東健、河相我聞、マイケル富岡

   住田隆、菅野菜保之、床嶋佳子、村井国夫

2006年3月25日 大阪松竹座

 歌舞伎俳優の尾上松緑が妖精パックを演じ、脚色・演出を花組芝居の加納幸和が担当して松竹座で上演されるシェイクスピア。歌舞伎に翻案したものならちょっと敬遠したい所だが、福田恒存の訳を用い、人気の若手俳優達をキャスティングした現代劇としての上演という事で、にわかに興味が湧く。なんといっても、最近あまりお目にかからない『夏の夜の夢』である。シェイクスピアの戯曲では『ヴェニスの商人』『十二夜』と並んで、個人的に最も好きな作品の一つ。我が国でも、毎年夏に上演する風習を確立して欲しい。もっとも、尾上松緑は歌舞伎界では人気役者なのか、パック役の俳優を主役級に扱っているのは前代未聞かも。

 まずは土俗的な舞踏音楽と共に、プリミティヴな儀式が始まる。日本古来の原始的祝祭のようにも見えるし、パプアニューギニアとかの儀式のようにも見える。悪くない出だしだ。この中から主人公の二組のカップルが飛び出し、シェイクスピアが始まる。現代的なギャグを取り入れ、お色気や性的描写を強調して猥雑さを醸し出そうとした演出のようだが、いかんせん、それら脚色された部分が原作本来の力強い進行を邪魔する形になって、少々もどかしい。原作通りにやった方がずっと面白いのに。

 シェイクスピアの劇は、見れば見るほど思うけど、多少カットしても大丈夫な代わり、余計なシークエンスやセリフを付け加えるとその部分が必ず浮いてしまう。よほど原作が緊密に組み立てられているのだろう。その代わり、テーマが現代に通じる普遍性を持っているので、ダイアローグをいじらなければ、視覚的要素や芝居の自由度は限りなく大きい。前田文子による衣装は、アジアン・テイストを基調にしながら西洋やアラブの雰囲気もあって、舞台美術と併せて無国籍な感じ。『レ・ミゼラブル』みたいな回転する舞台装置もいいが、回しすぎて効果が薄まった気も‥‥。

 若者四人は、河相我聞と海東健に、サトエリこと佐藤江梨子、元モーニング娘の保田圭。みんなある程度の芝居はしているが、本格的な舞台人と違って線の細い発声で、ちょっとキンキンした声にきこえる。皆よく健闘しているし、特にひどい点もないけど、それだけじゃ淋しい。もっとレベルの高い、ものすごい芝居もたくさん見てるもので‥‥。蜷川演劇などを見ていると、目が肥えてしまうのかも。他では、ボトムにマイケル富岡、クインスに元ビシバシステムの住田隆、タイターニアに床嶋佳子、オベロンに村井国夫と、なかなか個性的で豪華なキャスティング。この辺りの人達は舞台慣れしていて、やっぱり芝居がこなれている。

 私は歌舞伎に疎いので、尾上松緑という人がどういう役者さんなのかよく知らないのだが、本公演では際立った演技はあまり見られなかった印象。他の役者さんの中に混じっても特に強い存在感があるとは思えず、少なくとも、ポスターや宣伝での主役級の扱いはちょっと解せない感じ。

まちこまきメモ

 大阪松竹座に行くのは初めて。客層がいつもより確実に高い。そしてツアーの団体客っぽい人達も見られる。私にはあまり笑えないタイミングで、おばちゃんたちがよく笑っていた。なんとなく、おばちゃん向けにアレンジされたシェイクスピア劇を見ているような感じ。失礼ながら、なんの期待もしていなかったサトエリと河相我聞には、センスを感じた。いたずら好きの妖精パックを演じた尾上松録さんは、妖精なのにちと貫禄ありすぎ、どっしりしすぎじゃないの?と思いプロフィールを見ると、なんと1975年生まれとのこと。てっきり40代くらいの人かと思っていた。

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