1960年代のアイルランドを舞台に、サッカーに青春をかける少年達がカトリックとプロテスタントの熾烈な争いに巻き込まれてゆく様を描く、シリアスでほろ苦いミュージカル。『キャッツ』『オペラ座の怪人』の人気作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェバー久々の日本上陸作品で、今回は劇団四季ではなく、一般の寄せ集めカンパニーによる上演。嵐の櫻井翔君をはじめ、斬新なキャスティングが技アリ。 友人の影響で着々と嵐ファンへの道を歩みつつある妻は、年初めにも櫻井君のソロライヴに足を運んでいたが、今回は私がロイド=ウェバーのファンだったためで、翔君は偶然である。といっても、私も少しずつ嵐ファンの輪に取り込まれつつあるような気が‥‥。NHKの英会話番組に出ている安良城紅は、朝本浩文プロデュースでデビューしたシンガー。芝居ではイントネーションなどに時々違和感を覚えるが、歌はさすがに上手い。そして、朋ちゃんがやっぱり上手い! こういう場で聴くと、本職の歌手はやはりさすがと思わせるものがある。 そんな二人に囲まれた翔君は、曲のキーがどれも低いせいか、はたまた、意外と派手な見せ場に欠ける役柄のせいか、どうも手堅くまとめた印象。でも、後半の山崎裕太との対決シーンなんか、なかなか緊迫感あふれる芝居っぷりで、この先、もっと本領を発揮できる作品に巡り会えれば、さらなるパワーで観客を魅了するかも。周囲を固める山崎裕太、黒田勇樹、脇知弘も歌の見せ場こそあまりないものの、予想以上の好演。サッカーの場面なんて、サッカーの技術とダンスの資質が同時に求められる振付だが、迫力のあるステージングでチームワークの良さを発揮。役名も分からない、ちろっと出て来ては歌って帰るだけの女の人までが、相当な歌唱力を持っていたりもする。 ロイド=ウェバーの曲作り、音作りは相変わらずで、今回はキーボード3人にギター、ベース、ドラム、打楽器、フルート、ヴァイオリンの9人編成(舞台裏で生演奏)。個々の曲はキレイだし、試合優勝シーンの曲なんてすごく感動的だが、この人って、どんどん進歩してゆくタイプのアーティストではないみたい。昔の作品と今の作品、音楽的レヴェルはそんなに違わないような気がする。というよりも、『キャッツ』の図抜けたショーアップ・センスと哀愁、『オペラ座の怪人』の驚異的な作曲技術や耽美的陶酔を越える作品は、後にも先にも一作もない感じ。 特に、この人の音楽構成は、後半でグダグダしてくる事が多い。『オペラ座の怪人』もそうだけど、クライマックスを既存の音楽素材で構成しながら、それが有機的に相乗していかないのと、劇としては、終盤が短い場面の連続になってきて、説明のための場面展開が続くきらいがある。そのせいで、こちらの感情も断続的になり、大きな感動に繋がっていかない。要するに、アンチ・クライマックス。『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』のように、ダイナミックな感情の渦に巻き込まれてゆくような感じが欲しい(ロイド=ウェバー本人は、そんなもの全く目指していないのかもしれないけど)。形としては感動的なラストの筈なのに、なんか「あれえッ? こんな終わり方なの?」って感じ。思えば、『エヴィータ』も『ジーザス・クライスト・スーパースター』もみんなそうだったよ、ロイド=ウェバーさん。 |