恋の骨折り損

作:ウィリアム・シェイクスピア

訳:松岡和子

演出:蜷川幸雄

出演:北村一輝、高橋洋、姜暢雄、内田滋、窪塚俊介、須賀貴匡、中村友也、月川悠貴、他

2007年4月15日 大阪、シアターBRAVA!

 ニナガワ・シェイクスピア・シリーズ、本年早くも二作目の登場は、全員男性キャストによる喜劇シリーズ第3弾。私は、シェイクスピアに関しては悲劇よりも喜劇の方が好きなので、喜劇を取り上げる事自体は大歓迎なのだが、オールメール・キャストという事で女優さんの芝居が見られないのは残念。もっとも、女性役の俳優達もみんな達者なので、観ている内に全員男性だという事は不思議なくらい気にならなくなるのだけれど。

 《恋の骨折り損》は、ケネス・ブラナー監督がミュージカル仕立てで映画化したものがすごく面白かったので、個人的には映画のイメージが頭にこびりついているが、今回は役者陣の息がぴったりで、とても楽しい舞台。《間違いの喜劇》と同様、楽隊に合わせて役者が入場してきて、ラストは又、楽隊と共に去ってゆくという趣向だが、違うのは、演出家自身の言葉でいうと“叙情性”に焦点が当てられている所。そのため、《間違いの喜劇》とは少し違って若い役者達が中心であるにも関わらず、狂騒的なお祭り騒ぎの雰囲気よりも、リリカルな音楽に合わせてしみじみと心情を吐露する場面が目立っている。

 劇も終わり近く、滑稽な仮面劇のまっただ中。王女の元にやってきた使いがフランス王逝去の報を伝え、女性陣は哀しみに沈む。男性陣のそれまでのはしゃぎっぷりも一気にトーンダウン。ああ、これが演出家の言う「青春時代の終わり」なんだな、と分かった。「遊びの時間は終わった」と。もっとも、劇が劇だけにお笑いは満載だし、セリフのあちこちにラップを盛り込んだり、動的なテンションもちゃんと維持している。

 それにしても、北村一輝のような異色俳優が蜷川作品、それもシェイクスピア劇で主演を務める日が来ようとは。三池崇史監督の作品群で台頭してきた時には、あの凄みに圧倒されたというか、なんと恐ろしい役者がいるものかと思ったものだが、その後はクドカン脚本のドラマに出たり、話題のドラマ『夜王』で人気を博したり、横山やすし物語でも単なるモノマネに終わらない強烈なやっさん像を造形してみたり、この人には驚かされっぱなしである。今回は、舞台役者らしいよく通る声で、ユーモアたっぷりに主役を演じて喝采を浴びている。全く、何て人なんだ。

 今回のセットは、青々とした芝生の上に柳の巨木が幹をうねらせて舞台全体を覆い尽くすというもので、これもなかなか壮観。時折、風が吹いて葉が揺れる他、照明の当て方で青々とした鮮やかな色彩から、雪が積もったような銀色に染まったりもする。音楽は今回も笠松泰洋だが、舞台奥でオーボエも演奏。この人、専門は何の楽器なのだろう。生の楽器をよく使う蜷川演出、ここでは打楽器とトランペットの他、ユーフォニウムを使うという異色のアイデアでびっくり。

まちこまきメモ

 オールメン・キャストのシェイクスピア喜劇を見るのは2回目。喜劇なので普通に演じても滑稽さがあるところに、男性が女性を演じるというダブルの滑稽さが随所にちりばめられていた。シェイクスピアの時代は、これが当たり前だったとか。吉本新喜劇的な笑いもあるけど、よく考えたらシェイクスピアってドリフに近い気がする。長さんが背後にいるのに志村が気付かず調子乗ってるよ!的なシーンがあれこれ。

 今回は、手紙を読み上げるシーンにラップを取り入れていた。シェイクスピア劇の台詞もラップも、韻を踏むから一緒だったのね!

 ロザライン、パー子さんぽい・・・と思ってたら、やっぱりモデルはパー子さんだとパンフにあった(笑)。

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