チェン・カイコー監督の出世作『さらばわが愛 覇王別姫』の舞台化。蜷川演出に脚本が岸田理生、音楽が宮川彬良と来れば、傑作『身毒丸』の黄金トリオという事で大いに期待したが、こちらは案外王道というか、オーソドックスというか、ああいうシュールな劇ではなかった。 舞台は、ゾクゾクするような高揚感に満ちた音楽と共に、主人公が幼少時代に六本指の一本を切り落とされる場面で開始される。映画では尋常ならざるスピードで移動するキャメラで描かれた場面(こういう時のチェン・カイコーにはえも言われぬ迫力がある)だが、それを逆手にとってか、舞台奥から逃げてくる少年とそれを追う母親をスローモーションで描写。これがめちゃかっこいい。続いて少年たちや京劇俳優達のパフォーマンスやアクロバットなどが、音楽に乗せて回想シーンのように展開する。思わず引き込まれるオープニングだが、これは劇の最後で又、そのまま繰り返される作り。 本編はいわば音楽劇。肝心のソングナンバーだが、『身毒丸』の斬新さと過剰さは影も形もなく、比較的単調なバラードみたいな曲がほとんどで、個人的には途中から少し飽きてしまった。東山紀之は、特にファンでもないけれどナマで見るのはこれで二度目。通路横の席だったので、すぐ横をヒガシが通り抜けてゆく事数回。しかし、ヒガシのメイクがやたら濃いので、あまり現実感がない。さらに言えば、この劇全体でヒガシが京劇メイクなしで出てくる場面は数分間だけだったような。テレビでも、中国に行ったヒガシが本場の京劇を体験する所が放送されていたが、京劇特有の甲高い発声、先生に続いてヒガシがやってみた所…あまり出来ていなかった。ただの裏声だった。あれから大分経つので今日はどうかなと思ったが、結果は…出来ていなかった。ヒガシィ〜。 対する遠藤憲一は、蜷川氏が三池崇史監督作品の大ファンという事で、三池映画常連のエンケンに依頼がなされたという話。映画では実に面白い役者さんだけど、舞台ではちょっと声がカスカスで残念。常にカスカスなのか、舞台慣れしていないために喉がやられてカスカスなのか、どちらかは分からない。木村佳乃は案外声の太い人で、舞台ではセリフも立ち振る舞いもよく映える。テレビ中心の女優さんが舞台に出た時にたまにある、「がんばってます!」みたいな必死さがなくて、のびのびした感じが自然でいい。ただ、周囲がみんな大きいせいか、小柄な感じに見えたのは意外だった。それと、西岡徳馬が舞台俳優として堂々たる存在感を放っているのも意外だった。テレビではそんな人には見えなかったもので…。 |