プッチーニの有名なオペラを新しい台本、新しい音楽で作り直そうという意欲的試み。誰が考え出したのか分からない企画だが、演出の宮本亜門以下、音楽に久石譲、衣装にワダエミ、作詞に森雪之丞、振付にダレン・リー、台本に鈴木勝秀、美術に松井るみ、と錚々たる面々のアーティストが集結。キャストも個性派揃いとあって業界でも大いに話題を呼んでいる。 会場では、ロビーにいるスタッフもみんなワダ・エミがデザインした平民の衣装を着ている。早くも劇の世界が始まっているという事だろう。久石譲の音楽は歌謡曲臭が鼻について個人的には苦手な時も多いが、オーケストレーションの技術においては国内有数の名手なので、職人技に驚かされる事もしばしば。今回は、やはりオーケストラ部分の書法がすこぶる充実していて、普通のミュージカルでは聴けない響きがしているのと、ソングナンバーも妙にポップになったりせず、クラシカルで志が高い。合唱の曲も多くて大迫力。日本のミュージカル最高峰のレヴェルと感じた。 問題は台本。オペラの登場人物と最初の設定だけは踏襲し、後は自由に創作したオリジナルのストーリーだが、これがどうもしっくりこない。プッチーニのオペラを見るたびに荒唐無稽に感じるという宮本亜門の感覚はもっともである。確かに無茶苦茶なオペラである。そして、今回の台本は登場人物達にそれぞれ行動の動機があり、感情的にもちゃんと筋が通るものになっている。それなのにオペラ版の、あの力強く緊迫感に溢れ、大胆に心を揺さぶる迫力は、ここにはない。特にエンディングに向かうクライマックスの所が、なんかチマチマしてくる。イタリア・オペラの荒唐無稽は、それ自体が魅力なのかも。 大人数の役者を動員し、巨大な階段を中心に据えたセット美術と豪華な衣装は見もの。場面転換のスムーズさにも演出家の腕の冴えを感じるが、緞帳でステージを区切って一部だけを見せたり、上手と下手で別々のシーンを展開させたり、とかく映像的、映画的な発想があちこちに見られる。場面進行も、ほとんど映画を観ているような気分になる箇所がかなりあった。 役者さんはみんな健闘。ちまたで話題の早乙女太一君の舞が見られたのも良かった(こういう所に演出家のサービス精神を感じる)。北村有起哉のこんな軽快な芝居をみたのも初めてな感じ。中村獅童はイメージ通り。なっちは太い声で堂々。アジアの歌姫アーメイは歌うまい。結局一番ぴんとこなかったのは、主演の岸谷五朗かな…。発声というか、喋り方に違和感があるような…。終演後はスタンディング・オベーション、激しい歓声が浴びせられていた。ゴージャスな舞台ではあったが、個人的には台本のおかげでどこか吹っ切れない思いも残った。 |