『天保十二年のシェイクスピア』『藪原検校』に続く井上ひさし×蜷川幸雄の音楽劇第3弾。井上ひさしはやっぱり面白い。それに、ソングタイトルの付け方や劇と歌の関係性など、やっぱりヴァイル/ブレヒト作品を彷彿とさせる。初期作品だが、今回かなり手を入れて大々的にリライトしているという。この劇が又、時代も空間もなんと破天荒に飛びまくること! 物語の柱は三つ。興聖宝林寺の開山七周年記念に道元の弟子たちが演じる『道元禅師半生記』、幕府や朝廷、比叡山から様々な圧力を受けつつある道元達の現実世界、それから、婦女暴行の容疑で拘留されている夢の中の世界(現代)。これらの世界を行ったり来たりしながら、コミカルな音楽劇が繰り広げられる。 俳優は、蜷川演劇初出演の人も多く、みんな歌手ではないので、なんだか新鮮。妙な振付けで踊ったり歌ったり、大急ぎで走り回ったり、衣装の早替えをしたりと、一人が何役もこなす上、井上作品は俳優に何らかの芸が求められる場面も多いので本当に大変。みんな必死で動いているという感じ。観客としては、それがたまらなく面白くて、普段のイメージに沿わないような事も必死になってやっている俳優さん達が、なんだか愛おしくなってくる。その分、セットはシンプルである。『藪原検校』よりさらにシンプルかも。というか、『藪原検校』のセットと似ているような…。 伊藤ヨタロウの音楽は、歌謡曲あり、お経あり、ラップあり、ポップありと、正に多芸多才。井上戯曲の支離滅裂さを見事に音にしている。井上作品には宇崎竜童の音楽より合っているかも。セット美術や照明にはっとさせられる場面などもあるが、今回はやっぱり俳優陣のパフォーマンスを楽しむ舞台。チームワークも最高! |