音楽劇 ガラスの仮面

原作:美内すずえ

脚本:青木豪

音楽:寺嶋民哉

演出:蜷川幸雄

出演:大和田美帆、奥村佳恵、夏木マリ、川久保拓司、横田栄司、月影瞳、立石涼子、他

2008年8月30日 大阪、シアターBRAVA!

 数年前にアマチュアの老人を集めて、さいたまゴールドシアターを立ち上げた蜷川幸雄が、今度は若い人達の育成を考えているという事で、彩の国ファミリーシアターと銘打って人気漫画《ガラスの仮面》を舞台化。主役の二人もオーディションで選出。そのせいか、チケットも安かった。有名な原作らしいが、私は全然読んだ事がなく、予備知識ゼロ。それにしても、井上ひさし作品や《エレンディラ》《さらばわが愛、覇王別姫》など、最近の蜷川作品は音楽劇が多い。ミュージカル好きの私にとっては大歓迎だ。

 若い人に演劇の素晴らしさを伝えるというので、作品自体もバックステージ物というか、演劇が出来上がってゆく過程や舞台裏を描いているが、演出も過去の蜷川作品の手法を総動員した印象。まずは、蜷川お得意の稽古場演出が久々に登場。会場に入ると、すでに舞台の上で役者やスタッフが準備運動をしたり、雑談をしたりしている。そこへ、一般の観客に混ざって次々と客席通路を歩いてくる私服の役者達が舞台に上がり、そのまま奥へ消えていったり、リュックを置いて他の人と雑談しはじめたり。気がつけばそのまま本番に突入という寸法。

 本番が開始されても、しばらくは音楽に合わせて全員でウォーミング・アップ。これが延々と続き、そのままダンスナンバーからソングナンバーへという流れ。ストーリーは他愛もないというか、王道というか、いわゆる演劇版スポコン物といわれるままのお話だが、劇中劇で『赤毛のアン』や『サロメ』、樋口一葉の『たけくらべ』など様々な作品が上演されて楽しい。さらに、『オレステス』でもやっていた本物の水を使う雨が登場。今回は舞台前面部分のみに雨が降る装置だが、水の量が半端でなく、ほとんど土砂降り。そこへ、傘を差した俳優達が歌ったり、劇中劇を演じたりと大変。雨のシーンは何度もあるので、場面転換の度に水を掃いて拭き取っているが、それも黒子がやったり、登場人物がやったり、うまくストーリーに絡めて処理しているのはさすが。

 主役を座を射止めた大和田美帆は、大和田獏と岡江久美子の娘で、既にミュージカルを中心に活躍中。声量があり、セリフもすこぶる明瞭で表情豊かと、舞台役者たる素質を全て兼ね備えたような逸材でびっくり。一方初舞台の奥村佳恵は、新人らしい雰囲気もありながら堂々たる芝居(カーテンコールで足を滑らせて転びそうになり、出演者達から笑われていたけど)。夏木マリがうまいのはいつもの事。驚いたのは川久保拓司。イケメンすぎます。こんな男前、町なかで見た事ない。客席通路を行ったり来たりしているのを間近で見ると、男の私ですらクラクラする(ただし歌唱力は微妙)。

 音楽の寺嶋民哉はあまり知らない人だったが、つい先日、映画『ゲド戦記』を観てその音楽の素晴らしさに感動していた所。アニメ版やオリジナルビデオと、『ガラスの仮面』に携わるのはこれが三度目という人で、多彩なソングナンバーを披露。ムーディーな曲とか、ポップな曲とか、色々あるのはいいけれど、時に安っぽい曲もあって少々雑多な印象。『ゲド戦記』の統一感溢れる非凡な音楽とは、少しレベルが違う感じを受けた。勿論、素晴らしいナンバーもたくさんあったけど。

まちこまきメモ

 原作の漫画は3巻くらいまでしか読んだことがないのでさわりしか知らないのだが、漫画の世界観を忠実に描いていたように思う。特に月影千草役の夏木マリさんは、パンフやポスターの時点から既に月影先生が乗り移っているようで怖かった。演出家の小野寺役の人も、漫画の絵とそっくり。大和田美帆は、見た目的には北島マヤと似てないけれども、すごく滑舌がよく元気一杯で、なぜか程よく昭和感を醸し出していて(笑)、違和感なく北島マヤに見えた。

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