久々にニナガワ・シェイクスピアのオールメール・シリーズ。「から騒ぎ」は、ケネス・ブラナーが例によって豪華キャストで制作した映画を観た時に原作を読んだので、割合知っている。シェイクスピア喜劇だけあって荒唐無稽な筋書きではあるけれど、初期作品より成熟している感じもあって比較的好きな戯曲。 チューバ、サックス、太鼓という三人バンドがロビーでのパフォーマンス後、本番になると客席通路脇で演奏をスタート。舞台の上には、幾体もの彫刻でぐるりと囲まれた真っ白な台座がしつらえてある。今回は全員による入場はなく、上半身裸の使者が叫びながら客席通路を通って登場、台座の周りをぐるぐると走り回った後、レオナートの入場によって芝居がスタートするという具合。バンドも役者も、よく台座の周囲をぐるぐると回る。台座はかなりの高さがあり、手前と後方が階段になっているので、蜷川幸雄お得意の階段演出も全編に渡って展開。 ベネディックの小出君は、映画「パッチギ!」「キサラギ」とドラマ「のだめカンタービレ」しかみた事がなく、どれも特殊なキャラなのでどんな役者なのかよく分かっていなかったが、舞台初出演という事もあってか、独特の雰囲気。現代風のリズムと不思議な間合いで淡々と喋る感じは、演劇的な芝居を見慣れた目にはちょっと危なっかしく映るけれど、見方によってはひょうひょうとした感じで斬新。ちゃんと原作のセリフで笑いを取っているので、このアプローチも間違ってはいないのかも。 逆に相手役の高橋一生は、滑舌の良い安定感抜群の芝居でいかにも演劇的な雰囲気。彼は蜷川作品二度目という事だが、他の役者さんは常連組で固めている。高橋洋が今回不参加となっている代わり、大川浩樹が久々の悪役で登場。映画ではキアヌ・リーヴスが演じたドン・ジョンを憎々しく演じて存在感示す。いつも重厚な吉田鋼太郎は、リズミカルなセリフ回しと軽妙な身体のこなしでコミカルな演技に徹した印象。唯一、瑳川哲朗の悲嘆の芝居だけは、流れにそぐわないオーバーアクトという感じがした。久々に蜷川作品登板の井手らっきょもギャグ連発でやりすぎ感ありだが、こちらはなぜか浮いてしまわないのがシェイクスピア戯曲の懐の深さ。 今回は凝った舞台転換や照明はなかったが、阿部海太郎の音楽がなかなかいい。必ずしも中世ヨーロッパにこだわらず、妖しげなバンドミュージックのムードを持っている所が、逆にシェイクスピア的な猥雑さにマッチしていたりする。「リア王」に引き続き、この人には要注目。 |