井上ひさし×蜷川幸雄の音楽劇第四弾。平賀源内にスポットを当て、再び言葉遊びや過激な笑いを盛り込んだ井上流ハチャメチャ評伝劇が展開するも、前二作があまりに面白かったせいか、ややトーンダウンした印象。考えるにその理由として、今回は出演者がかなり多く、アンサンブルの面白さが後退して個々の役者の印象が希薄になった事と、いつもにも増してエロネタが多い(というか全編)事、それからソングナンバーの箇所で劇が間延びするせいじゃないだろうか(なにせこの劇、四時間近くある)。 冒頭、一同が舞台に勢揃いして正座で観客にご挨拶。幕が開くと同時に、客席から「おお〜っ」という歓声が漏れる。歌舞伎みたいに一人ずつ挨拶をして礼をして、本番が始まるという構成。これはなかなかいい。今回も歌が満載で、それぞれポップだったり、歌謡曲っぽかったり様々な趣向が凝らしてはあるのだが、ここでどうもテンポがつまずく。『カリギュラ』の朝比奈尚之による作曲という事で期待していたのだが、どうも井上ひさしの言葉をメロディにうまく乗せ切れていない感じ。音楽だけ聴いても、耳に残るメロディが少ない(一番最後のバラード曲は良かった)。休憩の時、後ろの席の女性が「歌をもっと減らして欲しいなあ」と言っているのが聞こえたが、こう言われてしまっちゃダメなんじゃないか。 それと、劇の場合は映画と違って目の前で生の芝居が繰り広げられるせいか、エロいシーンが展開すると見ていて無性に恥ずかしい。蜷川作品初登場の役者も多く、みんな芸達者でうまいのだが、高岡早紀や篠原ともえ辺りになってくるとセリフも少なかったりして、チームワークの迫力があまり出ないのも残念。勿論、あちこちで笑いは取っているし、勝村政信の講談なんか凄かったけど(井上作品には必ずこういう、役者に過度の負担を強いる芸の見せ場があるみたい)。 セットや小道具は、『藪原検校』や『道元の冒険』と較べるとかなりお金が掛かっている感じ。それにしても評伝劇は勉強になるというか、これも平賀源内のアイデアだったの?と驚くこと数回。井上ひさしは他にも樋口一葉や宮沢賢治から果てはチェーホフまで、様々な人物の評伝劇を書いているそうなので、ぜひ蜷川演出で見てみたい。 |