冬物語

作:ウィリアム・シェイクスピア

訳:松岡和子

演出:蜷川幸雄

出演:唐沢寿明、田中裕子、横田栄司、長谷川博己、藤田弓子、瑳川哲朗、六平直政、他

2009年2月21日 大阪、シアター・ドラマシティ

 今年も蜷川シェイクスピアで演劇初め。『冬物語』は実演を観るのは初めてで、原作を読んだ限りでは『ペリクリーズ』に次ぐくらいの荒唐無稽な筋書きでびっくり。それでも個人的には、シェイクスピア作品の中ではかなり好きな部類に入ると思った。

 まずは赤を基調にしたシチリアの舞台セット。背景は巨大な壁画が書かれているだけで、役者も赤い衣装で登場し、ボヘミア王だけが青い衣装。彼ら二人が手にした紙飛行機を飛ばすと、舞台の頭上をくるくると回り続ける(これは二人の仲が決裂した後では一機になり、ラストの和解に至って再びまた二機の紙飛行機が旋回する演出が素敵だった)。

 いきなり嫉妬の鬼になってしまうシチリア王は、どう演出しても無理があるキャラクターじゃないかと思っていたが、唐沢氏の自然な演技が逆に功を奏して、なかなか説得力のある前半部を形成。唐沢氏、『コリオレイナス』の時は声がカスカスでどうなる事かと心配したが、今回は好調の様子で存在感示す。バリトン・ボイス王子(横田栄司)のエエ声攻撃にも立派に張り合っていた。田中裕子はシチリア王の妻および娘の二役で、どちらも年齢的に無理がありすぎ。意図的とはいえ、声も細い。『ペリクリーズ』の時も同じ印象を受けたけど、『藪原検校』の時は素晴らしく生き生きとしていたので、単純にミスキャストなのかも。

 後半は、“時”によるモノローグを経て(シェイクスピアらしい機知に富んだ演出。『ヘンリー五世』にもこういう場面転換があったっけ)、舞台はボヘミアに移り、青を基調にした衣装とセット。背景の壁画も裏返しにして別の絵になっている。もっとも、ボヘミアでは農民が主役の場面が多く、六平、瑳川陣営がコミカルなパートを請け負う他、お祭りの場面で派手なデコレーションを施し、野趣に満ちたダンス・シークエンスを演出するなど、最下層の民衆演出を得意とする蜷川御大の手腕が炸裂。

 後半部で感動した場面は、やっぱりクライマックスの彫像が動き出す所。舞台に背を向けた人々が静止している中で、正面の彫像(娘パーディタは若い女優さんとこっそり入れ替わり、ここでは既に田中裕子)が突然動き出した途端、音楽が劇的に音量を上げ、とりまく人々が動揺して激しく動き回るという、静と動を極端に対比させた素晴らしい演出。16年ぶりに再会した妻の手をシチリア王がこわごわ触る所でも、後ろで見守る侍女達がシチリア王にすっかり感情移入して、自分達も同じようにかがんで目の前の空間を両手で掴もうとしているのが、もう見ているだけでひたすら感動的だった。

 最近『リア王』『から騒ぎ』と連続登板している阿部海太郎の音楽が又いい。エキゾチックな民族音楽風の女性の朗唱をメインにして、どこか物悲しいけれど決してウェットにはならない、見事なさじ加減の音楽を展開。美術や小道具もみな効果的で、最近の蜷川作品では特に大満足の舞台だった。

まちこまきメモ

 唐沢さん主演の舞台を観るのは2回目。個人的には、前回のコリオレイナスよりも、今回の役の方が、唐沢さんの素晴らしさを感じることができた。特に第1幕、実際はたいしたことは何も起こっていないのに、唐沢さん演じるレオンティーズの感情が暴走し、みんなをぶんぶん振り回してとんでもない方向に持っていく所が素晴らしい。横田さんは、今回も絶好調のご様子。スマートな長谷川王子様がこれまた素敵でした。昔からテレビや映画で観ていた藤田弓子さんの声を生で聞けたのも、物語と関係なくちょっと感激。

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