またもや蜷川幸雄&井上ひさしの話題作。『ハムレット』以来の共演となる藤原竜也と小栗旬が、宮本武蔵、佐々木小次郎として舞台で対決。もっともこれは、巌流島の戦いではなく、その後の話。吉川英治の小説で、決闘の後、武蔵が「手当をすれば命は助かるかもしれない」と言う所で終わっているのを受け、小次郎が一命を取り留めていたという設定。数年後、やっと武蔵の居場所を探り当てた小次郎は武蔵に再び決闘を申し込むが、劇はこれを「復讐の連鎖は断ち切れるのか」「生命の重みとは何か」というテーマに繋げてゆく。 井上作品にしては随分ストレートな社会性、メッセージ性のある劇だけど、そこはやはりナンセンス・ギャグで場面を作ってゆくので、今までの蜷川&井上ひさしシリーズとは若干構成が違いながらも、休憩込みの4時間という長丁場を全然退屈させない、勢いのある舞台。今回は歌はナシで、ダンスあり。俳優も11人という少人数ながら、一人何役という恒例の早変わりはなし。 美術は、能舞台のセットに背の高い木々を配して雰囲気があるが、冒頭の決闘シーン以降、全てこの場所で話が展開するので、セット・チェンジが一切ない。宮川彬良の音楽は秀逸。『さらばわが愛、覇王別姫』の時はどうも今イチだったが、今回は『身毒丸』の妖艶な美が戻ってきたような音楽で素晴らしい。殺陣の稽古がタンゴの振付けに変わってゆくという井上作品らしい場面でも、メロディを尺八に吹かせたりしてなかなか凝っている。しかも、普通にタンゴとして聴いてもかなり良い曲である(ここが大事)。 主演の二人はさすがなのだけれど、小栗旬は時に早口でセリフが流れてしまったり、藤原竜也は所々声が枯れていたりで、さすがに二週間にも渡る異例のロング大阪公演では保たなかったのかも。一番びっくりしたのが鈴木杏。こんなに上手い女優さんだったっけ?というほどの素晴らしさ。多種多様な声の演技で客席を圧倒する他、白石加代子と狂言の芝居まで披露。すごい。 |