血は立ったまま眠っている

作:寺山修司

演出:蜷川幸雄

出演:森田剛、窪塚洋介、寺島しのぶ、六平直政、遠藤ミチロウ、江口のりこ、蘭妖子、他

2010年2月27日 大阪、シアターBRAVA !

 寺山修司の処女戯曲。V6の森田君が出ているので、ジャニーズ・ファンの女の子ばっかだったらどうしようと思っていたが、ちょこちょこと男性の演劇ファンらしき人もいてとりあえずは安心。それでも客席は大半が女性である。安い席を取ったら、又もや二階席の最後尾。この劇場ではしょっちゅうこの席になる。

 それにしてもこの劇、難しくて全然分からず。ずっと見ていたら何とか筋らしきものは見えてくるが、セリフは半分かそれ以上が理解不能。蜷川作品だと、清水邦夫や唐十郎、野田秀樹の作品なんかも全然分からないが、カミュの《カリギュラ》や同じ寺山作品の《身毒丸》は、意味は分からずとも無類に面白かった。今回は視覚的な仕掛けに頼らないせいかも。ざっくり言えば、破壊活動に精を出す二人の青年に、一人の女性が加わって関係性が変化し、テロに失敗するという感じの筋書き。そもそも、私は60年代安保闘争のムードや心意気に、あまりノレない世代である。

 主演の二人はとてもうまい。窪塚洋介は初舞台だというが、映画でもお馴染みの一言一言はっきり区切る喋り方が舞台にぴったりで、セリフが聴き取りやすいし、抑揚が音楽的で身のこなしも軽い。反社会的なキャラクターにもとても合っている。森田剛も、難しい内容を観客側に引き寄せるポジションで、ユーモラスな芝居で笑いを取ったりする場面もあり。さすがにジャニーズの人は体の使い方が堂に入っていて、声が通るしセリフも明瞭。芝居全体が音楽的だ。

 わざわざこういうアイドルを寺山作品に起用する蜷川幸雄って、確信犯だと思う。もっとも、ジャニーズ事務所が絡む作品はDVD化やテレビ放送がまず望めないので、シェイクスピア・シリーズのように商品化が行われる舞台には起用できないのかもしれない。ギリシャ劇《エレクトラ》だって、V6岡田君が出てしまったせいでテレビでもDVDでも観る事が出来なかった。

 寺島しのぶは出番が少ない上、演出のせいか発声もか弱いので、実力を存分に発揮できる役柄だったかどうか。ザ・スターリンのパンク歌手遠藤ミチロウは、全編ギター片手に歌いまくる他、演技の場面もあり。若者の役というのは無理があるような気もするが、遠目には分からないかも。最近の日本映画にはあちらこちらとやたら出まくっている江口のりこ、舞台では残念ながら声に張りがなくてセリフが聴き取れない場面も多いが、独特の不思議オーラは健在。

 内容が理解できない割になぜか会場はスタンディング・オベーションだったが、そこへマスコミ関係者やカメラマンが客席通路に入ってきたかと思うと、舞台に蜷川氏も登場。六平直政がマイク片手に喋り始めた。曰く、ご存知の通り、寺島しのぶが先日ベルリン映画祭で銀熊賞を取った、この場を借りて授与式を行いたい、映画『キャタピラー』の監督、主演男優も客席に来ているとの事。

 会場が大いに湧く中、銀の熊のトロフィが手渡され、監督、主演俳優、蜷川氏、と続いて寺島しのぶが涙ながらにスピーチ、こちらも思わずもらい泣き。そういえば今日はテレビカメラが入ってるなとは思っていたが、これだったのか。でも、こういう場に立ち会えて私達も幸せである。寺島さん、本当におめでとうございます。

まちこまきメモ

 予想通り、内容は難しく、今流行っているものと真逆をいってる感じがしたが、それこそが、蜷川さんの狙いのような気がする。蜷川さんの舞台は、こういう分かりにくそうなお芝居にもだいたい男性スターが出てるので、どんな難解な舞台の時でも、今時の若い女の子がたくさん見に来ていて、なんだかおもしろいなーと思う。森田剛と窪塚洋介の組み合わせは、考えたこともなかったが、意外ととても良かった。個人的に、寺島しのぶはあまり好きではなかったが、舞台で見たらちょっといいかも、と思った。

 この日偶然、寺島さんが金熊賞のトロフィーを授与される現場に居合わせることができた。寺島さんを祝福する暖かいオーラが劇場全体に広がっていて、自分でも驚くぐらいに感動してしまった。あの感動は、テレビでは絶対に伝わらないと思う。難解なお芝居を見に行って、最後にこんなに暖かい気持ちになって帰れるとはびっくり!な一日だった。

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