騒音歌舞伎(ロックミュージカル) ボクの四谷怪談

脚本・作詞:橋本治

音楽:鈴木慶一

演出:蜷川幸雄

出演:佐藤隆太、小出恵介、栗山千明、勝地涼、谷村美月、三浦涼介、勝村政信、他

2012年10月20日 大阪、森ノ宮ピロティホール

 作家・橋本治が若い頃に一晩で書き上げたという、四谷怪談の現代版みたいなミュージカル。作家本人も忘れていたのを、蜷川幸雄が昔、何かの折に読んだのを思い出し、「こういうの、あったでしょ」と依頼したとの事。蜷川氏は四谷怪談が好きらしく、かつて竹中直人、広末涼子主演で鶴屋南北の原作を原文そのまま舞台化している他、『嗤う伊右衛門』など映画にも四谷怪談ものがある。この話の表にあたる『仮名手本忠臣蔵』の方も昔、新神戸オリエンタル劇場のこけら落としで舞台化。

 話はまあ、四谷怪談のパロディというか、元ネタに皮肉やヒネリを加え、現代風に異化して別種の物語にアレンジしたような内容。面白くないとは言わないけど、こういう事は今や、お笑い芸人やコメディ劇団の方がずっとセンス良くこなすと思う。演出家も出演者も、「無茶苦茶」「壊しっぷりが凄い」とコメントしているけど、私はそれほどとは思わない。演劇でこの系統となると、井上ひさしのような鬼才もいるし。

 もう一つ、ムーンライダーズの鈴木慶一による音楽が、どうも締まらないというか予定調和的で、破壊的なパワーに乏しいのが残念。歌詞も場面をなぞるだけのものが多く、わざわざ歌にする必然性を感じないナンバー多し。ミュージカルはやはり、音楽に圧倒的な魅力がないと厳しい。なにせあの《キャッツ》《オペラ座の怪人》のアンドリュー・ロイド=ウェバーでさえ、傑作と呼べるミュージカルはほんの数作しか書いていないくらいだから、ミュージカルの傑作を生むのは相当難しいのだろう。

 音響にも首を傾げたくなる所があって、ほとんどのソング・ナンバーで伴奏のオケが弱々しく、歌っている俳優達が可哀想なくらいパワフルなノリに欠ける一方、ワーグナーのオペラと最後のロック・ナンバーだけが耳をつんざく大音響で鳴り響き、どちらの音量も適切とは言い難いバランス。

 逆に、素晴らしいのが役者さん達。奇声を発するテンションの高い演技でイメージを打ち破る谷村美月にびっくりし、アドリブ的な笑いで即座に会場の空気を和ませる勝村政信の技に舌を巻く冒頭から、最後の佐藤隆太の見せ場に至るまで、ひたすら役者さんに拍手を贈りたくなる舞台だった。『道元の冒険』の時は声が細すぎるように感じた栗山千明は、出演者の中で断トツの歌唱力(彼女は歌手としても一流ですから。ラップのリズム感も相手役・勝地涼の比ではない)と、モデル体型を生かした颯爽たる身のこなしがひときわ目を惹いて、華やかさ満点。

 他の出演者は歌唱力がややしんどいけれど、実力者揃いで芝居はさすが。特にラスト近く、佐藤隆太による一人芝居は、延々と続く長台詞を落語のように緩急巧みに語りつつ、徐々に感情も高めていって山場で爆発させる構成力も秀逸。思わずその場でスタンディング・オベーションしたくなるほど見事なパフォーマンスだった。橋本治曰く「本来アドリブで行うものを、作家が全部書いちゃったから役者は大変だ」という事で、ごく自然に聴こえた独り言みたいなセリフも全て台本に書いてあると知って仰天。佐藤隆太、毎日一人だけ居残りをして練習したそうです。拍手!

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