グローブ座カンパニー ヴェニスの商人

作:ウィリアム・シェイクスピア

訳:本橋哲也、本橋たまき

演出:ジェラード・マーフィ

出演:木場勝己、毬谷友子、山崎清介、松田洋治、武正忠明

   竹下明子、戸谷昌弘、他

1996年6月2日 大阪、近鉄劇場

 《ヴェニスの商人》というと、他には劇団四季の公演しかみた事がないが、シェイクスピアの中では最も好きな戯曲の一つ。学生時代、ゼミでこの戯曲を一年間勉強したが、その頃は全然面白いと思わなかった。卒業してからこんなに興味が湧くなんて、大学というのもエライものである。まず、キャスティングがユニーク。シャイロックを演じるのは木場勝己。シェイクスピア劇のみならず、色々な舞台に引っ張りだこの人気役者だ。他には《子供のためのシェイクスピア》シリーズの山崎清介や、鈴木清順監督の映画なんかに出ていた毬谷友子、それから松田洋治。

 演出は、舞台の上に何にも置かず、役者もラフな私服で出て来て、出番がなくても舞台上で待機するという、最近よく見る“オフステージ”もの。個人的に、こういうのはあまり好きじゃない。低予算に対して開き直った、手抜きとしか思えない。役者が幾つもの役を掛け持ちしたりするのも、同じ服だから区別がはっきりしないし、何だかせわしない。原作を知らない人が見たら、かなり混乱するかも。

 役者さんはみんな上手いけど、おそろしく早口。舞台の展開もスピーディーなので、しばしば何を喋っているのか分からなくなるのは問題。劇団四季はこの点、ほぼ完璧にクリアしていたが、優等生の朗読劇みたいでほとんど感情移入が出来ず。どちらも極端という事か。毬谷友子は不思議ちゃんのイメージがあったけど、変化自在の演技でポーシャを演じて、客席から大いに笑いをとっている。さすがだ。よく考えたらこの人の芝居、他では一度もみた事がなかった。鈴木清順の映画も観てないし。舞台慣れした役者さんが揃っているので、台本は淀みなく流れ、観客にもウケているが、これではテンポが早過ぎて、ゆっくりと劇を味わう気分にはならない。

 ラストはやっぱり、シャイロックを徹底的に虐待して人種差別の問題を強調する終わり方。劇団四季も同じ傾向の演出だった。この劇に関してユダヤ人差別うんぬんの議論がある事は、学生時代にも授業で聞かされていたから、特に新鮮な視点ではないと思う。ちなみに私はこういう演出、あまり好きになれない。すごく後味が悪い。シェイクスピア自身も、特に差別問題を取り上げるつもりで書いたわけではなく、単に当時の風潮だっただけらしい。エンターティメントとしてよく出来た戯曲なんだから、楽しい演出にすればいいのにと思う。差別問題は、観客それぞれが自分で考えるのにまかせれば充分だ。

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