NINAGAWAマクベス

作:ウィリアム・シェイクスピア

訳:小田島雄志

演出:蜷川幸雄

出演:北大路欣也、栗原小巻、大和田伸也、瀬下和久、瑳川哲朗、他

1997年5月31日 大阪、近鉄劇場

 一昨年の蜷川演出『夏の夜の夢』にすっかり満足して、これはと思うシェイクスピア劇には頑張って足を運んでいるが、今回は蜷川シェイクスピア、それも過去に話題を呼んだ、いわば彼の代表作の再演。『マクベス』自体、シェイクスピアの悲劇の中では最も好きな作品なので、期待に胸膨らませて劇場へ。

 まず、妹尾河童によるセットにびっくり。舞台全体が巨大な仏壇になっていて、二人の老婆が扉を開けると中で物語が展開するという演出。ちなみに老婆二人は最後まで舞台の両端に座ったままで、時々お茶飲んだりしている様子。着物で演じる時代劇という事で、もう完全に和風に置き換えた演出だが、ここまで徹底されるとそれなりに納得。ただし、仏壇セットはどうかと思うのと(半分ギャグみたいになっちゃっている)、冒頭に登場する魔女三人を歌舞伎役者が演じていて、ストレートプレイとしては何を喋っているのかほとんど分からないのは問題。それと、主演の役者さんがみんな超大物すぎて、若い世代の観客には少々アピールが弱い感じ。

 途中の、大きな仏像がボンボン並んでいるセットもすごいけど、『マクベス』と言えばやっぱり、バーナムの丘が動きだすシーンが重要ポイント。兵士がみんな木の枝でカムフラージュしていて、移動すると魔女の予言通りに丘が動いたように見えるという凄まじい場面だが、どうするのかと思ってみていると、何と、桜の枝を持った武士達がスローモーションで動く姿が、仏壇の薄い扉を透かして見えてくる。これには、やられた。和風に置き換えたんだから、やっぱここは桜かあ。桜吹雪の中で展開する戦闘場面もそうだが、こういう美意識というのは、本当に凄いものだと思う。音楽は、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」を何度も繰り返し使っているが、この、憂鬱で、疲弊したように緩やかで悲しい音楽が、純和風の舞台にぴったり合ってびっくり。

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