“チェコ人形アニメの第一人者トルンカの多彩な短編を楽しめる作品集” |
『イジー・トルンカの世界1〜3』 |
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チェコを代表するアニメーション/絵本作家イジー・トルンカ(絵本業界では“イジー・トゥルンカ”と訳されています)の短編を集めた三枚のDVD。三枚組のボックスも出ています。他のメーカーから出ている別記の『イジー・トルンカ作品集』全五巻と合わせると、トルンカのアニメーション作品はほぼ完全に網羅できる事になります。ちなみに、セルアニメは主に『〜作品集』の方で長編とカップリングしてあり、こちらのシリーズはほぼ全て人形アニメ。 |
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イジー・トルンカの世界1 『手』その他の短編 |
『善良な兵士シュヴェイク1/コニャックの巻』(1954)23分 |
『善良な兵士シュヴェイク2/列車騒動の巻』(1954)22分 |
『善良な兵士シュヴェイク3/堂々めぐりの巻』(1954)31分、『手』(1965)19分 |
兵士シュヴェイクのシリーズは、チェコの国民的作家ヤロスラフ・ハシェクの小説が原作。同じくチェコの国民的な絵本作家であるヨゼフ・ラダが美術に参加していて、シュヴェイクの長話の場面ではカートゥーンを担当しています。シュヴェイクは善良というよりも間抜けな兵士で、上官との会話も噛み合ず、あちこちで騒動を起こしますが、現代日本人の感性からすると、どこが面白いのかちょっと…。これが又しつこいというか、出口の見えないやり取りが延々と続くので、どうにも笑えないコメディという感じです。シュヴェイクの声も独特のダミ声で、可愛いというキャラクターでもなく、むしろ背景などディティールの表現を味わうべき作品でしょう。 遺作の『手』は、トルンカの短編の中でも特に有名な作品。花を愛する職人が、部屋に侵入してきた巨大な手に自分の彫像を彫るよう命じられるが、命令を拒否して植木鉢を作り続ける。しかし手は執拗に干渉を続け、職人を巨大な鳥かごの中に閉じ込めてしまう。色彩やデザインの美しさとは裏腹に、どこか政治的、象徴的な意味合いと強いメッセージを感じさせる作品です。 |
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イジー・トルンカの世界2 『電子頭脳おばあさん』その他の短編 |
『悪魔の水車小屋』(1949)20分、『二つの霜』(1954)13分 |
『電子頭脳おばあさん』(1962)29分、『天使ガブリエルと鵞鳥夫人』(1964)29分 |
初期作品『悪魔の水車小屋』は、水車小屋に出現する悪魔を調子外れの手回しオルガンで退治する男の話。民話風の味わいがありますが、オルガンに合わせてぴょこぴょこ動くカエル達などアニメの見所も多い短編です。ちなみに、トルンカの朋友ヴァーツラフ・トロヤンが音楽を担当しているのは、当ディスク中この作品のみ。『二つの霜』は、人間に悪口を言われて面白くない二人の霜の精があれこれ復讐を試みるも、結局うまく行かないというコミカルな短編。霜の精はセルアニメで描いたものを実写映像に合成しています。雪景色の美しい映像表現に注目。珍しくセリフ入り。 後半二作はシュールな色彩を帯びてくる晩年の作品。『電子頭脳おばあさん』は独特の不可思議なムードを持った異色SFです。おばあさんの家を出て両親の所に行った少女が不気味な機械に翻弄されるというのが大筋ですが、このストーリーもどこか曖昧な感じで、むしろ個々のシュールな表現が際立っています。『天使ガブリエルと鵞鳥夫人』はボッカチオの『デカメロン』に原作を取ったもの。こちらも不思議なデザインによる人形のパントマイムゆえか、私には細かい物語進行がよく分かりませんでした。全編に漂う独特の雰囲気を楽しむべきなのでしょう。 |
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イジー・トルンカの世界3 『フルヴィーネクのサーカス』その他の短編 |
『バネ男とSS』(1946)14分、『コントラバス物語』(1949)14分、『草原の歌』(1949)21分 |
『楽しいサーカス』(1951)12分、『フルヴィーネクのサーカス』(1955)23分、『情熱』(1961)9分 |
こちらはさらに短い15分前後の多彩な短編を6編収録。『バネ男とSS』はモノクロの初期作品で、当ディスク中唯一のセルアニメ。ナチス占領下、覆面のバネ男が親衛隊に悪戯を仕掛けてゆくという、当時としては相当きわどかったのではと思われる内容です。『コントラバス物語』はチェーホフ原作で、水浴び娘とコントラバス弾きのやりとりを描く人形アニメ。『草原の歌』は、アメリカ西部劇のユーモラスなパロディですが、主人公の男女が朗々と歌っている歌は、まったくデタラメな英語によるもの。『楽しいサーカス』は切り絵を使ったアニメーションで、熊やアシカの曲芸、空中ブランコなど、サーカスの情景を再現した、特にストーリーのない作品です。 同じくサーカスをテーマにした『フルヴィーネクのサーカス』は、トルンカの師ヨゼフ・スクパが生み出した人形劇の人気キャラクター“フルヴィーネクとシュペイブル親子”の一作。トルンカ門下のブジェチスラフ・ポヤルも、同じキャラクターで『探偵シュペイブル』という作品を制作しています(『チェコアニメ作品集』に収録)。最後の『情熱』は、スピード狂に生まれついた男の一生を描いた短いアニメですが、後期の作らしくモダンなセンスが横溢しています。 |
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