チェコ・アニメの母親的存在、ティールロヴァーによるガーリーで優しいアニメ作品集

ヘルミーナ・ティールロヴァー

『二つの毛糸玉』 その他の短編

『結んだハンカチ』 その他の短編

 

 チェコの人形アニメーションでは、イジー・トルンカやカレル・ゼマンなどの巨匠と並び、特に大きく扱われているのがこのティールロヴァー。彼女の作品は、毛糸や裁縫道具、おもちゃなどを使って、身近なモノに命を吹き込んだ優しいタッチのものが多く、内容も、高度な芸術性を追求した難解で象徴的なものよりは、視覚的な可愛さを追求した子供向けの作品が多いです。その意味では親しみやすいアニメ作家と言えるでしょう。彼女の作品では、ゼマンやガリク・セコがアニメーターを担当しており、トルンカが美術で参加した作品もあるそうです。

 80年代まで制作を行った人なので作品数が非常に多く、この短編集では到底全作品を網羅しきれていませんが、逆に言えば、これだけ観ればおおよそ全体の見当が付くアニメ作家だという事かもしれません。もっとも、彼女の作品はカンヌ、ヴェネツィア、ロカルノなど各国際映画祭で上映され、何度か受賞もしていますから侮れません。DVDは二枚に分けて単品で発売されている他、ガリク・セコの作品集と合わせて三枚組にしたボックスも出ています。

◎『二つの毛糸玉』 その他の短編

『二つの毛糸玉』(1962) 8分

 赤と青の毛糸玉の人形が、はさみや待ち針、糸巻きなど裁縫道具と遊び回るという、短いパントマイム。音楽も、繊細なオーケストレーションで秀逸です。

毛糸のお話』(1964) 10分

 羊を連れた子供が、太陽やライオンの襲撃に遭いながら海に出るまでをオール毛糸で描いた、ティールロヴァーお得意の平面毛糸物。他にも数作品で組んでいるズデニェク・リシュカの音楽は、毛糸の動作に合わせた効果音共々エコーの効いた電子音で統一していて、どこか近未来的雰囲気。

雪だるま』(1966) 9分

 こちらも2Dの毛糸アニメ。雪だるまが雪合戦をする話で、ペンギンなども出てきて画は可愛いですが、電子音のみの効果音と音楽が良くも悪くもB級SF風。

豚飼い王子』(1958) 14分

 アンデルセン童話が原作の人形アニメで、トルンカ作品と似た雰囲気もあるナレーション入りのストーリー物。パステル調の色彩感覚や衣装のデザインなど、女性監督ならではの華やかさあり。

知りたがりの手紙』(1961) 21分

 好奇心旺盛な手紙がポストから飛び出し、紆余曲折を経ながら宛先に届くというお話。実写との合成作品で、キャンプ場で手紙の到着を待つ子供の姿と交互に描かれる構成です。俳優もたくさん参加して空撮なども使い、意外に大規模な撮影にびっくり。コマ撮りアニメの手紙が俳優と絡む場面では、一体どうやって撮ったのかという箇所もあります。

玉』(1963) 9分

 様々な色や形の玉が組み合わさって出来た動物たちが水晶玉を奪い合うという小品。視覚的な面白さを追求した感じでしょうか。

迷子の人形』(1959) 19分

 こちらも俳優達による実写映像と人形アニメを組み合わせた作品。突然やってきた嵐のせいで公園に置き去りにされた人形が、持ち主の元に戻るまでのお話で、『知りたがりの手紙』とよく似た構成です。嵐の場面など、予期していた以上に大規模な撮影で、人形アニメ特有の箱庭的世界から外へ出た印象。

『結んだハンカチ』 その他の短編

『ミーチェク・フリーチェク』(1956) 18分

 人形劇を元にした作品で、日本では「ホップ・ステップ・ジャンプくん」という絵本になっているそうです。老夫婦が子供代わりにしていたボールを悪い凧に奪われ、周囲の協力を得て無事に取り返すという不思議なお話。なぜ凧なのか、なぜボールを育てているのか、謎だらけの設定です。

『カラマイカ』(1957) 10分

 食い意地が張った怠け者の男が、周囲に責められつつも意に介しないというお話。ストーリーよりも、民芸品みたいな木製の人形を動かす事が目的のようで、子供の合唱を使った民謡風の音楽と相まってひなびた世界を展開。カラマイカというのは、チェコの伝統民族舞踊だそうです。美術は『クルテク』で有名なアニメ/絵本作家ズデニェク・ミレル。

『十人十色』(1958) 10分

 イソップ寓話の、ロバに乗って砂漠を行く二人に、行き交う人々がみんな違う忠告をするというお話。人物は右から左へ移動し続け、立体アニメなのに常に横顔しか見せない点は『毛糸のお話』辺りと似た雰囲気ですが、実は本作でのティールロヴァーは脚色のみ担当で、監督は別の人。

『結んだハンカチ』(1958) 15分

 こちらも実写とコマ撮りアニメのミックス作品。留守番の少年にママが残した、「蛇口の修理を忘れないで」という意味で結んだハンカチ。少年とハンカチは、それを無視して出かけてしまうのです。

『機関車くん』(1959) 14分

 脱走した機関車が元の職場に戻るまでを描いた、ナレーション入りの人形アニメ。絵本を思わせる明るい色彩やデザインなど、子供向けの雰囲気。

『仕返しの日』(1960) 11分

 物を乱暴に扱う男の子が眠っている間に仕返しされるという、子供向けの教訓めいた一篇。男の子の部分は実写映像です。ティールロヴァー作品としては珍しくシュールな雰囲気。

『青いエプロン』(1965) 8分

 風に乗って空を飛んだエプロンが黒い煙を吐く物体と戦うという、これまた不思議な作品で、全体の雰囲気やデザインなど、これもティールロヴァー作品には珍しくアーティスティックな仕上がり。

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