“アカデミー賞監督ペトロフの至芸、色彩とイマジネーションが飛翔する初期作品集” |
アレクサンドル・ペトロフ作品集 |
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ロシア新世代のアニメーション作家、アレクサンドル・ペトロフは『老人と海』で見事アカデミー賞に輝きましたが、それ以前の作品を収めたのがこのDVDです。特典映像として、ペトロフ自身が自作を語るインタビューを収録。どの作品も既に、ガラス版に書いた油絵をアニメートするという手法で製作されていますが、内容的に難解な部分もあり、どれも大人向けの一般映画だといえます。動きや絵のタッチはペトロフ特有のものですが、後年の作品のようなカラフルで淡い色彩はなく、ロシアの大地を思わせる重厚な色彩が支配的。 |
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『雌牛』(1989) 10分 |
子牛を売られて絶望した雌牛の末路を、農家の子供の視点で描いた短編。現在ヤロースラヴリにスタジオを構えるペトロフですが、彼はモスクワで二年間、アニメーションの脚本・監督の上級コース(どの学校かは不明)で学んでいて、本作はその卒業制作だそうです。与えられた1分間の枠には収まりきらず、教授の承諾を得て二つの短編小説から脚本を構成した力作。後年の作品ほど色彩豊かではなく、茶色っぽくくすんだ色調ですが、師匠のユーリ・ノルシュテイン譲りの豊穣なディティール描写と、深遠なシンボリズムには圧倒されます。本作は世界的に話題を呼び、アカデミー賞にノミネートされました。 |
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『おかしな男の夢』(1992) 20分 |
人生に絶望し、自殺を企てた男がその直前に見た不思議な夢で愛を知り、生きる力を取り戻す話。ドストエフスキー原作の極めて難解な短編ですが、ペトロフはこの小説を映画化したいがためにモスクワでアニメを学んだのだそうです。例によって、重厚な色彩と神秘的なディティールに満ちあふれていますが、彼が常に自作中で表現している「愛」の主題が、非常な重みをもって物語の核に据えられていて、極めて格調の高い映画になっています。アニメや実写という手法の枠を越えた、すごみのある映画。 |
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『水の精/マーメイド』(1996) 10分 |
水辺の小屋に住む老人を悩ませる水の精。弟子の若者の命を狙うこの水の精は、かつて老人の行いが原因で入水自殺した女性でした。永遠に死ぬ事ができない水の精の苦悩と、過去の悔恨に責め立てられる老人の苦悩、それを同時に解決する“犠牲”の行為は、正にペトロフ作品のテーマである“愛”に他なりません。ほとんどセリフのない短編ですが、詩的で重厚なアニメーション表現が崇高な鑑賞体験をもたらしてくれます。再びアカデミー賞にノミネート。 |
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