詩情あふれるアニメーションで描く、狂おしくも甘い青春の悲劇

『春のめざめ』(2006) 28分

 

 ロシアのアニメーション作家、アレクサンドル・ペトロフによる珠玉の青春映画。三鷹の森ジブリ美術館が提供に参加していて、上映もDVD製作もジブリ美術館が受け持っています。ちなみに、特典映像にはペトロフの作品制作に密着した35分ほどのドキュメンタリー(師匠のユーリ・ノルシュタインも登場!)が収録されている他、初回出荷分にジブリ美術館ライブラリー誕生ものがたりというディスクも付属しています。

 19世紀末、ロシアのある田舎町で、ツルゲーネフの小説『初恋』に憧れる16歳の少年アントン。住み込みの少女パーシャと隣家の令嬢セラフィーマという、境遇も年齢も全く異なる二人の女性に恋する彼の性急で身勝手な行動は、周囲の人々を混乱させ、傷つけ、事件にまで発展してゆく。しかし、これが恋でなくて何でしょう。思わず自分の青春時代を振り返り、未熟で衝動的な行動が周囲に迷惑ばかりかけていた苦い思い出を脳裏に蘇らせてしまうのは私だけでしょうか。ともかく、アニメといってもほぼ完全に大人向けの、ひたすら美しく、ほろ苦い映画です。

 それにしても、奔放な表現意欲に溢れ、詩情あふれる繊細なタッチで出来事を綴るペトロフの手腕はどうでしょう。物語自体はシンプルなもので、実写でも表現できる、というよりむしろ、実写の方がずっと簡単に、安上がりに製作できるような内容です。結局は物の見方というか、どう伝えるかなのであって、ここではディティールに込められた無限のニュアンスが、表面的なストーリー以上の何かを雄弁に語っている訳です。この甘美さ、この狂おしさ、そしてイマジネーションの飛翔。印象派の絵画が動き出したかのようなタッチは、間引きされた動きにも関わらず、ほとんど実写撮影に接近しているようにも感じられます。

 全体の流れはスピーディーかつ音楽的で、感情の起伏が大きく波打つ、熱病に浮かされたようにテンションの高い演出手法は、同国の巨匠ニキータ・ミハルコフ監督とも共通する性質を感じます。どこまでも深い情感の表出や文学性を帯びた語り口も、過去のロシア映画の数々を彷彿させる特質。別に出ている作品集と併せ、一般の映画ファンにも広くお薦めしたい短編です。

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