こちらもペトロフによる、文豪ヘミングウェイの小説の映像化。製作期間4年以上、実に29000枚もの絵を動かした本作は、DVDインナーの説明にペトロフ初の大画面映画(テニスコート2面分)と中途半端な記述がありますが、これはI−MAXシアター用の作品だったようです。製作・配給に日本のイマジカやNHKエンタープライズ21、電通が入っている他、プロデューサー陣にも日本人の名前が列記されている所を見ると、日本とロシアの合作のようですが、その辺りの説明も全く記載がありません。 それにしても、ガラス板に手で描いては消しつつ撮影されたこのアニメーションの、まあ美しいこと美しいこと。タッチも色彩も構図も動きも、もう、最初から最後まで全部の場面が奇跡だと言っても過言ではありません。実を言うと、私は本作を含めてヘミングウェイの小説は苦手なのですが、あの即物的で乾いた文体の原作を、ここまでみずみずしい感性で映像化し、かてて加えてポエジーと幻想味まで漂わせるとあっては、これはもう魔法以外の何物でもないという気がします。本作は2000年にアカデミー短編アニメ賞に輝いていますが、それも当然でしょう。 ちなみに、DVDは日本語吹替音声のみで、老人を三國連太郎、少年を松田洋治が吹替えていますが、これは映画公開時の音声なのだろうと思います。日本側は、最初から吹替を想定していたのでしょう。しかし、商品化の際には英語(ロシア語)音声の日本語字幕版も入れて欲しかったです(製作側からすれば日本語版がオリジナル音声なのでしょうけれど)。 再発盤ディスクには、同じ製作陣によるヘミングウェイのドキュメンタリー、『ヘミングウェイ・ポートレイト』が収録されています。こういうドキュメンタリーはインタビューで構成した退屈なものが多いですが、こちらは世界各国でロケし、空撮やクレーンまで動員したスケール雄大なイメージ映像を主としており、なかなか見応えがあります。もっとも、このDVDはペトロフのアニメに興味があって購入する人が大半でしょうから、ほとんどのユーザーにとっては興味のないカップリング作品かもしれません。 |