『チェブラーシカ』のスタッフが再び贈る、小さくて暖かい冬のメルヘン

『ミトン』  

 

 2003年、『チェブラーシカ』のスタッフによる幻の人形アニメーションが日本で劇場公開されました。それがこの『ミトン』と二つの短編作品です。赤い編みぐるみの子犬と少女が抱き合っている雑誌の宣材写真をみて発奮した私達は、即座に映画館へ飛んで行きました。10分の短編を三本ですから全部合わせても30分しかないわけですが(さすがに入場料も千円になってました)、上映は各回ともかなりの入りだったようです。

 監督のロマン・カチャーノフや美術のレオニード・シュワルツマン、音楽のシャインスキーなど、『チェブラーシカ』の主要スタッフが集結しているだけあって、いかにもロシア・アニメらしいこっくりした色合いやレトロで可愛らしいデザイン、胸に沁みる暖かさ、寂しさは健在ですが、『チェブラーシカ』と違って三作ともセリフがなく、サイレント風の雰囲気があるのが特徴です。母子の関係を描いていて父親が登場しない所も三作共通。こちらも後に、三作全てを収録したDVDが発売されました。

『ミトン』(1967) 10分

 犬を飼いたいけれど母親に言い出せない女の子。雪の上で赤い手袋を子犬に見立てて遊んでいる内、手袋が本物の犬に変身して‥‥。心の奥の懐かしい部分にそっと触れるような、寂し気で、温かな短編です。ロシアの雪景色というのは、実際に行くと厳寒で大変なのでしょうが、メルヘンの背景には最高にロマンティックですね。ラストは予想通りというか、希望どおりですが、やっぱりホロリときちゃいます。モダンだけど実は優しい母親のキャラクターも魅力的。ジャズ調の快活な音楽もしゃれてます。

 

『ママ』(1972) 10分

 幼い息子を家に置いて買い物に出かけた主婦が、心配してあれこれとサスペンスフルな想像をしてしまう様を描く短編。白を基調とした、都会的で洗練されたデザインが印象的なアニメーションですが、例によって物悲しい音楽が全編に流れます。もっともこの音楽は、ロシア民謡風の素朴さが味わい深い『チェブラーシカ』とは少し趣が違ってポップなアレンジで、どこか日本の歌謡曲を思わせる雰囲気もあります。コミカルとまではいきませんが、ユニークな映像表現も盛り込まれ、『チェブラーシカ』『ミトン』とは少々肌合いの異なる作品です。

  

『レター』(1970) 10分

 船乗りの父から届く手紙を毎日心待ちにしている母子。ある日を境になぜか手紙が来なくなり、二人の毎日は狂いはじめる。現実と空想を織り交ぜながら、不在の父に寄せる母子それぞれの強い想いを描く切ない一編。音楽も、ひたすら哀しく心に響きます。実験的表現も盛り込まれた作風は変化に富み、リリカルなだけでは終わらない所もさすが。

*   *   *

 

Home  Top