“可愛らしくカラフルなタッチを用いながら、詩的な世界を深く掘り下げる”

『ムーン・フィルム』 ドーラ・ケレステシュ作品集

 鮮やかな色彩とキュートなデザインで、「動く絵本」とも形容されるケレステシュ作品。しかし内実は詩的なスタイルのものが多く、決して見た目ほど分かりやすいアニメとは言えません。この作品集DVDも、ストーリーのあるものは1作だけで、他は全てイマジネーションの世界を追求した感じ。ただ、可愛くて美しいイメージの連鎖は見ているだけで楽しく、その意味では大人も子供も受け入れられる作風と言えるでしょう。

 彼女はブダペストのハンガリー・アート&デザイン大学で学び、子供向けの本や現代文学の装丁、イラストの分野で活躍。その後は映画や舞台のポスターに興味が移り、ブダペストの芸術雑誌「ミューズ」のアート・ディレクター、デザイナーを担当。現在はフリーで美術家、舞台芸術家。アニメーション監督として活躍し、作品は内外に出品されています。

 彼女の初期作品では、夫でもあるイシュトヴァーン・オロスが共同監督を務めていますが、ケレステシュもオロス作品にスタッフとして参加しています。ちなみにこのDVDはオロス、マリア・ホルヴァットの作品集との3枚組ボックス・セットに収録されています。

『ムーン・フィルム』(1979)

 ハンガリーの詩人、ヴェレシュ・シャーンドルの詩を映像化したもの。民謡、俗謡を現代的にコラージュしたような音楽は、ヴィーズオントーというグループで、セリフのない作品だけに音楽の存在感が際立ちます。イラスト自体はカラフルで可愛い作風。

『マジック』(1985)

 前作に続き、シャーンドルの詩を基にした作品。ハンガリーの民間信仰を詩とナレーションで表現し、民謡風の音楽で表現しています。世界観は前作と地続き。

『ゴールデン・バード』(1989)

 クルミの木の囁きを聞いたミハーイは、冒険の旅に出る。この作品集の中で唯一、明快なストーリーのある作品で、尺も長め。奨学金を得てローマに留学していた時期の製作で、監督自身認めている通り、人物の顔や背景の描写にルネサンス絵画の影響が出ています。

『顔』(1999) 

 石像、マスク、版画など、古代から現代まで人が描いてきた人間の顔をコラージュした、アーティスティックなイメージ作品。

『柳の微笑み』(2001)

 月、星、花、鳥、女神、騎士など、様々なシンボルやアイコンを、色鮮やかなイラストで表現。やはりアート・フィルム的な要素の強い作品です。

『ナンダ、ナンダ?』(2002)

 神秘的な祈りの世界を、東洋風の音楽に乗せて描写。青い背景に版画のような絵が次々に浮かぶ、ケレステシュ作品の中では色彩と線が制限されたスタイルです。

『イチ、ニ、サン』(2005)

 2種類の笛の音に乗って、次々に変化してゆくキュートなイラストレーション。子供の囃し歌、言葉遊びの俗謡をモティーフに、全編ワンカットで撮影されています。

(合計36分、インタビュー映像付き)

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