“帰らぬ父を待ち続ける娘‥‥8分間で描かれる人生の光と影”

『岸辺のふたり』(2000) 8分

 

 幼い娘を置いて、岸辺からボートで行ってしまったきり戻らない父親。少女から大人へと成長してゆく娘は、ひたすら川沿いの並木道に自転車を走らせ、父と別れた岸辺に通い続ける。

㎜プリントでロードショー公開されるという奇跡を起こしました。この日本での異例の事態にヴィット監督も「世界で初めての事だ」と感嘆したそうです。

 ロシア・アニメの巨匠、ユーリ・ノルシュテインは本作についてこうコメントしています“この作品は、愛への賛歌です。スクリーンを、ともに自転車に乗り、風に吹かれ、いいメロディを耳にして快く過ごし、そして最後の瞬間に涙がほとばしるのです。その涙のきらめきが、作者からの贈り物”。岸田今日子のコメントも印象的なのでご紹介します“夕焼け色のアニメ。美しくて淋しくて。本当は何があったのか、わたしは何を見たのか、わからない‥‥”。

 父の面影を求めて自転車を漕ぎ続ける女性を、ヴィット監督は、強い逆光によるシルエットのようなシンプルな線だけで描いています。しかも、全体はセピア色のようなノスタルジックな色彩に包まれ、イヴァノヴィッチ作曲のワルツ《ドナウ河のさざ波》の物悲しいメロディと繊細な効果音が、作品のムードを作り上げます。私達も映画館に足を運びましたが、作品の短さゆえか、なんと三回もリピート上映されました(個人的には二回で良かったと思います)。さらにヴィット監督の前作『掃除屋トム』『お坊さんと魚』も同時上映されましたが、『岸辺のふたり』とは作風が違ってびっくり。毛筆を使ったような線は独特ですが、作品のタッチはむしろポップでユーモラスなものでした。

 ちなみにこの作品、米・英のアカデミー賞で短編アニメーション賞を受賞している他、各国のアニメ賞を総ナメにしています。DVDも発売されていますが、特典映像も何もなしの8分ぽっきりのディスクで、税抜1800円。美しいブックレットには、絵本版『岸辺のふたり』を翻訳した内田也哉子による書き下ろし詩編が収録されていますが、購入するにはちょっと勇気のいる値段ですね。紙箱のケースなど装丁のデザインも美しく、棚に飾ってもおしゃれなので、プレゼントにいいかもしれません。(注 文中の商品はもう中古でしか入手できないようですが、2011年2月、監督の他の作品も収録したリマスター版が発売されました!)

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