“都市に生きる現代人の孤独。我が国では数少ないホッパーの画集”

エドワード・ホッパー(タッシェンジャパン)

 ロルフ・ギュンター・レンナー

 古今の有名な画家であれば、その生涯や特徴などが詳しく説明され、作品もカラーでたくさん掲載した本が各社から出ているものです。ところがこの、エドワード・ホッパーに関するものは全然見つからず、ふと、タッシェンなら出しているんじゃないかと調べてみた所、タッシェン・ニューベーシックアートというシリーズの中に、やっとホッパーの名前が見つかりました。

 ホッパーは、19世紀末に生まれ、1960年代まで活躍したアメリカの画家ですが、アメリカと聞いて想像する、アンドリュー・ワイエスとか、或いはアンディ・ウォーホールのようなポップアートとは、少し違う作品を描く人です。彼の典型的な作品では、たいてい、都会の片隅に、暗く沈んだ表情をした人物がひっそりと描かれていて、それらの人々のほとんどは、どこか疲れていて、孤独で、ほとんど放心しているように見えたりもします。ホッパーが生まれ育った19世紀末というのは、急速に都市の近代化が進んでいった時代だと思うのですが、同時に、人々が、日々の生活の中で精神的にいささか無理を強いられはじめた時代だったとも言えないでしょうか。我が国で言えば、例えば夏目漱石などは、都市の近代化を体験し、そういう生活の中で感じはじめた孤独感というものを、恐らく最初に文章にした作家の一人ではないかと思うのです。

 この本では、ホッパーの作品が硬質な文章で細かく分析されていますが、必ずしも“都会に生きる人々の孤独を描く”ホッパーに焦点が当てられているとは言えないようです。むしろ、彼の絵にしばしば見られる自然と文明のせめぎあいや、シュールレアリスティックな側面に着目して論を展開しています。和訳のせいもあるのか、大変読みにくく感じられる部分もありますが、ホッパーに関して、これだけの作品を収録し、詳細に言及された本は他に見当たらないようなので、彼の絵が好きな人なら持っていたい一冊でしょう。私も、彼の絵には、なにか、容易には説明し難いような不思議な共感を覚える瞬間があります。

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