“人気作家が5人の表現者達と交わす、率直で奥深い言葉たち”

『本題』 (講談社文庫)

 西尾維新

 ×小林賢太郎、荒川弘、羽海野チカ、辻村深月、堀江敏幸

 ミステリを中心に斬新な作風で人気の作家・西尾維新による対談集。オムニバスではありますが、雑誌の連載などと違って、一人一人にたっぷりと分量をとっているので読み応えがあります。実を言うと、私はこの人の小説をまだ一作も読んでいないのですが、気になっている作家ではありますので、こういう入り方もありかなと、文庫化を機に手に取った次第です。

 個人的な印象ですが、ラーメンズの小林賢太郎、漫画家の荒川弘との対談辺りまでは、著者が慣れていないのか、それとも対談相手との相性なのか、どこか理屈っぽさが前に出て、奥行き方向へ話が踏み込まないもどかしさを感じます。逆に、女性二人との対談は、語り口が平易な反面、非常にエキサイティングな対談という感じ。

 特に、羽海野チカとの「才能」に関するくだりは、実に興味深い言葉の応酬になっています。「才能」とは何かという話なのですが、彼らはそれを「持って生まれたもの」というよりも、そこに「1万時間を費やした結果」という捉え方をしています。なるほど。でも、ここで言及されていない話でいえば、私はやはり「いくら努力しても0を1にする事は出来ない」と考えますので、例え僅かでも素質は必要というか、「誰でも1万時間を費やせば」という話にはならないと思います。

 最後の堀江敏幸は、率直な物の言い方をする人で、前半部分は著者と意見の齟齬を見せているようにも読めますが、単に直截な意見というだけで、読み進める内に、お互いの仕事への尊敬が窺われて、好感が持てます。

 また、全体に「執筆方法」などについての質問もなされているので、作家を目指す人には参考になる本かもしれません。ただ、スティーヴン・キングが自著で述べている、「小説家とは小説を書いている人の事であり、『どうやったら小説が書けますか』と訊いてくるような人は小説家にはなれない」というのが真実かと思いますし、本書にも、それに近い話が出てきます。

*   *   *

 

Home  Back