“マジック・リアリズムの秘密すら明かされる、読書好き必読の豪華対談本”

『疎外と叛逆 ガルシア・マルケスとバルガス・ジョサの対話』 (水声社)

 ガブリエル・ガルシア=マルケス

 マリオ・バルガス=リョサ

 訳:寺尾隆吉

 『百年の孤独』で知られるコロンビアの作家ガルシア=マルケスと、『都会と犬ども』『緑の家』で知られるペルーの作家バルガス=リョサ。ラテンアメリカ文学ブームの火付け役ともなったこの二人の、あまりにも豪華な対談本。対話自体はさほど長いものではなく、バルガス=リョサによる『百年の孤独』に関する論文と、エレナ・ボニアトウスカによるバルガス=リョサへの単独インタビューが併録されていますが、それでもさほど分厚い本ではありません。

 内容も決して難解ではなく、むしろ読書好きにとっては垂涎と言えるもの。南米文学の現状、特にペルーでは誰も作家になんかなりようがないというバルガス=リョサの愚痴にも注目ですが、私が凄いと思ったのは、主にマジック・リアリズムの本質に関するガルシア=マルケスの発言です。

 例えば『百年の孤独』の中にある、知恵遅れの美しい少女が庭で洗濯物にくるまれて昇天する場面。自分はリアリズム作家だというガルシア=マルケスの説明は、「種を明かせば簡単な、しかも実に卑俗な話です。町にいた美しい娘が男と駆け落ちしたのですが、家族はそんな屈辱に耐えられず、『ああ、あの娘なら庭でシーツを畳んでいる内に空へ上がってしまったよ』と言っていたのです。小説を書くとなれば、何の面白みもない陳腐な話より、対面を保つために家族がこしらえた話の方がいいでしょう」。

 同じ名前の登場人物が何度も出て来る事に関しても、「私は十二人兄弟の長男で、十二歳の時に家を出たので、母は『やはりこの家には誰かガブリエルがいないと』と思って一番下の弟に同じ名前を付けたんです。物事は説明なしにそのまま受け入れないと、まったく陳腐な説明を付ける事しかできませんよ」と切り返していますが、バナナ農園の凄惨な場面については、全て本当にあった事件のままだとしています。

 結局この本で分かるのは、マジック・リアリズムというのは、本来は合理的な説明が付くものを敢えて説明しないとか、他人が言った冗談や対面を保つための嘘を、そのまま真実のように描写する事で生まれてくるものだという事。よく、「南米の作家にとっては全て現実で、マジック・リアリズムのつもりでは書いていない」と言いますが、それはどういう事なのかとずっと疑問でした。その秘密の一端が分かっただけでも、この本の意義は果てしなく大きいと思います。

 バルガス=リョサへのインタビューで、友人でもある聴き手の作家ボニアトウスカが、若さに溢れて気さくな彼の人柄に大いに惹かれている様子なのも、バルガス=リョサという作家の人間的魅力が垣間みられて楽しいです。尚、人名は訳者のこだわりか、広く流布している「バルガス=リョサ」ではなく「バルガス・ジョサ」となっています。

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