“大笑いして、癒されて、最後には涙が‥‥犬好きにはたまらないイラスト付きエッセイ”

ダーシェンカ あるいは子犬の生活』 (メディアファクトリー)

 カレル・チャペック  訳:保川亜矢子

 チェコを代表する国民的作家、カレル・チャペックは様々な分野で活躍し、特に“ロボット”という不朽の言葉を生み出した事はよく知られています。最近は紅茶のブランドにも名前が使われていますが、そんな彼の特に風変わりなエッセイがこの『ダーシェンカ』と、次にご紹介する『園芸家12カ月』です。どちらも世界的なロングセラーとして、わが国でも何種類かの訳本が出版されています。

『ダーシェンカ』は、チャペック家で生まれたフォックステリアの子犬が、すくすく育って他の家に貰われてゆくまでを綴ったイラスト入りエッセイに、子犬にきかせるためのお話、子犬を写真に撮る方法などの文章を加え、最後にダーシェンカの写真集を付けるという、実にユニークな構成の本です。それだけでも何やら興味をそそるのに、文章が又、機智とユーモアに富んでいて、短いながらも強烈な印象を残します。でも、笑いながら読んでいると、最後の最後でホロリとさせられるかもしれません。著者の兄、ヨゼフ・チャペックもイラストやデザインの分野で大変有名な人で、弟の本にもよく挿絵を提供していますが、本書だけはカレル自身がイラストを担当しています。しかし、簡素でユーモラスなタッチなど、やはり兄の作風と似た雰囲気を持っていると言えるでしょう。

 既刊の邦訳本の中では、伴田良輔訳の新潮文庫版などをよく書店で目にしますが、敢えてこのメディアファクトリー版をセレクトしたのは、チェコ語の原本から全訳されている上に、1933年初版のカレル・タイゲによる装丁とレイアウトを再現しているからです。実際、素敵なブックデザインで、雑貨屋系の書店などでも人気のようです。犬への愛情に満ちあふれたこの本、皆さんも手に取ってみられてはいかかでしょう? 日本で最初に出版された昭和書房版には、佐藤春夫がこんな序文を寄せています。「この本を店頭から持って帰ることは、犬好きにとっては愛らしい子犬を一匹抱えて帰る時と同様に楽しいものに相違ない。

“チェコの園芸家たちの生態を愛情と皮肉たっぷりに活写した、笑えるロングセラー”

『園芸家12カ月』 (中公文庫)

 カレル・チャペック  訳:小松太郎

 これも世界的なロングセラーとして、我が国でも有名な本です。『園芸家になるには』から始まり、『1月の園芸家』『2月の園芸家』と季節ごとに園芸家の生態を紹介していって、最後の『園芸家の生涯』まで、兄ヨゼフの挿絵と共に、痛快なユーモアで大いに笑わせてくれます。どう読んでも、園芸の本というよりは、コミカルなエッセイという感じですが、この人のギャグ・センス、若干しつこい点を除けば、案外現代っ子にも通用しそうです。名前を伏せて紹介したら、さくらももこの本だと言っても信じるかもしれません。少なくとも、二つの大戦間の世情不安定な時期に書かれている事実は驚嘆に値します(著者はナチス侵攻の前年に亡くなっています)。

 基本的には、自分自身も含め、園芸家の凝り性ぶり、心配性ぶりや、目の前の事しか見ない近視眼的傾向を揶揄しているわけですが、植物に限らず、土や肥料関係の固有名詞の羅列も徹底していて、著者自身、相当な園芸マニアであった事が窺われます。もっとも、ユーモア一辺倒ではなくて、例えば『11月の園芸家』の結び、一見冬眠の季節、休養の季節と見える冬に、土の下では着々と春に向けて発芽の準備が行われている状態を、人間にも当てはめている所は感動的です。「未来はわたしたちの前にあるのではなく、もうここにあるのだ。(中略)芽がわたしたちに見えないのは、土の下にあるからだ。未来がわたしたちに見えないのは、いっしょにいるからだ。」

 尚、訳者はチェコの首都プラハ(Prague)を最後まで“プラーグ”と訳し続けますが、世間一般に“プラハ”と呼ばれている有名な街なのですから素直に従えばいいのに、なんて思ってしまいます。本来の発音がどうなのかはともかくとして、いやはや頑固な人です。

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