私も大ファンの演出家、蜷川幸雄の対談本。ただしこちらは、一対一の対談ではなくて、蜷川幸雄を含めた3人によるトーク・セッションという形になっています。シアター・コクーン主催公演のパンフレットに連載されていたものを一冊にまとめた本なので、私のようにせっせと蜷川演劇を見に行っていた人なら、既に目にしている文章も幾つかある事でしょう。 全体的な印象として、蜷川幸雄自身はプレゼンテーターというか、コーディネーターというか、場のセッティングだけしてあとは聞き役に回っている雰囲気もありますが、人選が幅広くて組み合わせも面白いので、それだけでも十二分にエキサイティングな内容となっています。テーマは、必ずしも演劇や芸術の話題に絞られている訳ではなく、その意味では、野田秀樹や真田広之などの演劇界の人より、全く違う業界の人達との対談の方が、より刺激的な方向に話が行っているのではないでしょうか。 対談本には、普通だったら著書を読まないかもしれないような作家や学者の思想、持論を窺い知る事ができる楽しさがありますが、本書などはその最たるもので、これだけの顔ぶれが並ぶと壮観ですらあります。特に、中沢新一と藤原新也の回は、デジタル/アナログ論から現代社会における生死の意識まで、興味深い議論が展開しています。又、後に『バカの壁』で大ブレイクした養老孟司が、若者の身体性の認識について話しているのはこの人らしい所ですが、安藤忠雄と村上龍の回でも似た問題が取りあげられていて、面白いと思いました。蜷川幸雄と安藤忠雄はTV番組でも対談しているのを見かけましたが、とてもユニークな組み合わせですね。 |