皆さんは川瀬巴水(かわせはすい)、ご存知でしょうか。私は元々、日本画に疎い上に、この画家はどちらかと言えばマイナーな存在だという事ですから、恥ずかしながらつい最近まで全く知りませんでした。たまたま『美の巨人たち』というTV番組を見て、この人の木版画を知ったのです(テレビ大阪&テレビ東京さん、どうもありがとう)。実はこの巴水、海外での方が人気があるそうで、大型書店のサイトで検索しても、洋書がたくさんヒットする割に、国内の研究本や画集はほとんど出てきません。そんな中、ひときわ光っていたのがこの本。巴水の作品をカラーで三十数点掲載し、リンボウ先生が詩と文を添えた画集で、函入りのしゃれた装丁なのに、お値段が二千円台という願ったり叶ったりの好企画。即購入致しました。 正直に言いますと、リンボウ先生の文章の方は、微妙な所です。現代風の詩だったり、絵とは関係のないエッセイだったり、普通に感想文だったり、内容は色々ですがなかなかハイレベルな調和が取れないというか、絵に合わないわけではないのですが、合っているけどどうも通俗的で受け入れ難いという感じでしょうか。まあ、こういうのは誰が書いても難しいものなのかもしれませんが、ともかく、巴水の絵は魅力全開です。日の暮れた山道の向こうに夕陽を浴びて輝く山肌、月明かりの下に横たわる池、雨に煙る温泉地、夜の静寂に包まれた清水の舞台、雪の中のお堂(絶筆の『平泉金色堂』!)などなど、昭和初期の日本を描いた彼の風景画は叙情的な美に満ちあふれています。特に、夕暮れ時や夜の風景の、しみじみとしたノスタルジックな風情は見る者の心を捉えて離しません。 もっともこれは、タイトルに『夕暮れ巴水』とあるように、巴水の描く夕景・夜景の魅力に着目したリンボウ先生が、特にこだわってそういうテーマでセレクトしているせいもありますが、これら木版画に見られる繊細を極めた色彩のグラデーション、絶妙な光の効果は、私のような素人にとって、正に驚きの連続です。何はともあれ、一度巴水の絵に接してみて下さい。日本画にあまり馴染みのない人にも、巴水の絵は充分魅力的に映るのではないかと思います。おすすめ本です。 |