“この広場は長い歴史を見て来た。人間は愚かしいものだとは、私達仲間の通説になっている”。パリ、コンコルド広場に置かれた椅子が読者に語りかけてくる、美しい詩画集。ご存知の通り、日本画から出発した東山魁夷は、ヨーロッパの風景もたくさん描いていて、北欧四カ国をめぐる画集『森と湖と』(新潮文庫)は私も好きな本ですが、その彼がこんなおしゃれな詩画集を出していたとは、ごく最近まで知りませんでした。最初に見つけたのは、本好きの間で全国的に有名な京都の恵文社一乗寺店で、この時に見たのは旧版の方。現在私が所有しているのは、もっとサイズの大きな復刻版で、フランス語の対訳が付いている他、幻の特装版に収められたエッチング作品も特別収録しているとの事。 どのページも、余白をたっぷりとって、短い文章や絵をぽつんぽつんと配置してありますが、それが何とも贅沢で、みていて豊かな心持ちになります。それぞれの絵は、モノクロや単一色だったり、シンプルな線で描かれていたり、シャガールを彷彿させたりと、よく知られた東山魁夷の画風とはかなり印象が異なりますが、不思議な静けさの中から、パリの香気と共に、日本的なデリカシーや詩情も漂ってくる所はさすがです。文章の方は、若干通俗的な部分もなくはないですが、全体に、しっとりとした叙情を感じさせる美しいものです。 |