《羊飼いの少女》や《平和の木》といった作品が、ユニセフのグリーティング・カードに採用されている銅版画家、南桂子(1911−2004)の作品集が発売されました。ニューヨーク近代美術館をはじめ各国の美術館に作品が収蔵されている世界的に評価の高い画家ですが、手に取り易いサイズでお手頃価格という画集は今までなかったようで、ファンにとっては正に待望の発売かもしれません。 南桂子は、作品のほとんどをパリで描き続けた人で、少女、花、小鳥、樹、お城、塔、教会といった女の子チックなモティーフを、落ち着いた雰囲気の中、不思議なデザイン感覚で配置しています。しかし、色を制限し、銅版画特有の繊細な線で描かれたその作品世界は、ひたすら静謐で優しく、観る者の心に、ほのかなメランコリーの余韻さえ残します。それにしてもこの人の作品、登場する人間が見事なまでに全て“少女”ですね。少なくともこの作品集には、少女以外の人間は一切出てきません。ちなみにこの銅版画という技術、私はほとんど知らなかったのですが、先日、人気銅板画家の山本容子がNHKの番組で実際にやって見せていて、非常に興味深く拝見しました。 本書は他に、谷川俊太郎が寄せた詩や、フランソワーズ・サガンの翻訳等でお馴染み朝吹登水子による解説、年譜、南桂子の短い童話のような文章作品も幾つか収録していて、資料的にもなかなか充実しています。ちなみに、“ボヌール”とはフランス語で“幸福”の事だそう。眺めるほどに味わい深く、美しい画集です。 |