最新科学の分野にも相当詳しい立花隆が各ジャンルの第一人者と対談した、知的好奇心をくすぐるトーク集。ヒトとサルの違い、地球外生命体の存在可能性、微生物の実体、植物の本質、人間の「自己」を守る免疫システムの不思議、等々。私のような、完全に文系に偏った読者にとっては、免疫学や微生物学の話は専門的で難しいですが、全体的には文系の読者でもある程度、注釈を頼りにして科学の世界を楽しめる本だと言えるでしょう(もっとも、本書オリジナルの出版は1993年だから、既に最新の内容とは言えませんが)。 全編に底流するのはやはり、地球環境がいかに一般人の想像を越える切迫した状態にあるかという、強い危機感です。サル学の河合雅雄との「自然を考える」という対談は、人間が自然の持つ多様性を単純化したがゆえの問題について触れています。本来は複雑な自然環境を、ある作物のみに特化した環境に作り替える事によって、想定外の害虫、害獣を呼んでしまう。或いは、人工的植林が花粉症を引き起こしてしまう。農業も植林ももちろん私達に必要なものですが、こういう結果を見ると、一体どうすればいいのだろうと、深く考えざるをえません。 科学者ばかりの面子の中では、河合隼雄(対談本には欠かせない人ですね)だけ少し異質な印象を受けますが、対談の内容はとても印象的です。ここでもやはり抑鬱症(デプレッション)の話が出てきますが、現職の精神分析医でもある氏が言うには、人間というのは普通の人でもかなり無理をして生きているのだから、特に社会に“生きにくさ”を感じるタイプの人には、「あんたが生きているだけで、すごい素晴らしい事じゃないか。なにも仕事みたいなことせんでも」と言う事もあるそうです。私などはこの箇所を読んだ当時、何だか救われたようで気持ちが楽になった事を覚えています。(本書は残念ながら、文庫、単行本とも現在絶版のようです) |