“豊富な体験を軽妙なタッチで語りまくる、塩野七生の面白エッセイ集”

『イタリアからの手紙』 (新潮文庫)

 塩野七生

 『ローマ人の物語』など歴史小説で知られる塩野七生が、デビューしてまだ間もない頃に発表したエッセイ集。話題の豊富さと書き手の洞察力の深さによって、単なる紀行エッセイの枠を超えた傑作になっています。文章に関しては、特に前半の方でぎこちないというか、文法的におかしく感じられる箇所も目立ちますが、内容があまりに面白いので、次第にそんな事は忘れて引き込まれてしまいます。短いエッセイの一つ一つは、どれも痛快なほどの面白味がありますが、まず題材の選択に斬新なセンスが光る上、既に自己を確立しているかのような強靭かつ明晰な思考を感じさせる辺り、この作家、ただものではないという感じがします。面白い物の見方をする俊英作家が、これまた面白い体験ばかりしているのだから、作品が面白くなるのは当たり前という事でしょうか。

 例えば、イタリアのマフィアについて、その生い立ちと浮き沈みの過程を歴史的視点から捉え直し、著者自身の体験も踏まえて、シチリア社会における彼らの謎めいたポジションに言及する『マフィア』。まるで小説の一場面のように人物を活写した『M伯爵』『トリエステ・国境の町』『友だち』。自身のエピソードを、これもよく出来た小説ばりに仕立て上げた『通夜の客』『ナポリと女と泥棒』。或いは『イタリア式運転術』『ナポレターナ』『永遠の都』など、街やその歴史、住民の気質などについて考察したもの、『ヴェネツィア点描』や『ある軍医候補生の手記』などフィクションなのかノンフィクションなのかはっきりしないものまで、実に多彩な、他では読めないおもしろエッセイが目白押しです。まるで、無類に話の上手な人が目の前で喋りまくっているみたい。

*   *   *

 

Home  Top