子供の頃、まぶしい夏は毎年やってきた…。名指揮者の娘による、懐かしくも感動的なエッセイ集

おわらない夏(集英社文庫)

  小澤征良

 刊行時にかなり話題を呼んだエッセイ集。著者の父親で世界的指揮者の小澤征爾が音楽監督を務めていたボストン交響楽団は、夏シーズンの本拠地を山間部のタングルウッドに置き、毎年音楽祭を開催します。著者は、子供の頃から毎夏をタングルウッドで過ごし、それが当たり前になっていた訳ですが、父親がボストン響のポストを辞任する事になり、タングルウッドの夏はついに終わってしまう。彼女は、幼少時代の幸福な思い出と、もうやってこないタングルウッドの夏、ひいては二度と戻ってこない子供時代への郷愁を、瑞々しい筆致でひたすら著述し続けます。

 大体私は、どんな凄い人の話でも、子供の頃こんな事をして遊んだとか、こんな人が近くに住んでいたとかいう、幼少期について書かれた文章が苦手で、著者にとっては懐かしい思い出でも、私には子供のありふれた日常にしか感じられないのですが、本書もやはり、ちょっとこういうのはなあ、と前半部など気分的に敬遠気味でした。著者が又、過去へのノスタルジーをしつこいくらいに強調するものだから、それもちょっと…といささかゲンナリしたのも事実です。しかし、両親や周囲の大人の愛情をたっぷり浴びて育った著者の記憶は、タングルウッドの緑のようにキラキラと輝いていて、どのエピソードも幸福感でいっぱい。だからこそ、後半部分に至って、私のような読者ですら耐え切れずボロボロ泣いてしまったりするわけです(だって、いい話なんだもん)。

 文章は、ところどころ素人っぽい部分もありますが、美しいリズムで書かれているし、描写も詳細で、何よりも登場人物が普通じゃありません(作曲家のジョン・ウィリアムズやスピルバーグなどが登場)。ちなみに、著者の名前は“おざわせいら”と読みます。そして文中頻繁に登場する彼女の弟“ユキ”は、大河ドラマや映画でも活躍中の俳優、小澤征悦(おざわゆきよし)です。

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