人と繋がる事って難しい…人気イラストレーターによる、ひたすら切ないエッセイ集

片想いさん 恋と本とごはんのABCWAVE出版

 坂崎千春

 可愛らしい装幀デザインと女の子チックなタイトル、中を開けばイラストとごはんのレシピ、そしてアルファベットの文字ごとに各章のテーマが並ぶ構成。書店で手に取ってパラパラ眺めた限りでは、ちょっとオシャレなエッセイに見えてしまうかもしれません。著者は、雑誌『クウネル』のクウネルくんや、JR東日本「Suica」のペンギンなどをデザインしたイラストレーターで、『ペンギンゴコロ』などの絵本作家でもある人。

 著者は、本や食べ物をテーマに各章を綴ってゆきますが、そこに書かれているのはひたすら一方通行の“想い”。そして、やり切れないほどの孤独。タイトルの“片想い”には、恋愛のみならず、友情に関する“片想い”も含まれていて、読み進んでいく内に、本書には一貫して“他人と繋がる事、分かり合う事の難しさ”という切ない感情が底流している事に気付きます。私は、これほど切実な人恋しさと、八方塞がりな状況をストレートに綴った文章は長らく読んだ事がなかったので、予想外の展開に思わず大泣きしてしまいました。家に一人でいて、ちょっとしたきっかけから号泣してしまうというエピソードなど、「ああ、この感情は知っている。自分が過去に経験したのと全く同じだ」と、まるでその頃の空気がそのまま戻って来たような気持ちにさえなりました。

 私は、自分の経験から、当人には永遠に続くように感じられるこの状態も、いつかは必ず打破されるものと信じていますが、そういう発言が無責任である事も否定はしません。むしろ、こういう本を読んで(私にとってのそれはチェーホフやテネシー・ウィリアムズでした)、自分と同じ悩みを文章にしているアーティストがいる事で大いに気持ちが救われれたのをよく覚えています。著者の状況を赤裸々に伝える本書の文章は、それでも決して重くはなく、淡々として軽妙ですらあります。触れるのが遅くなりましたが、紹介されている書籍のチョイスもユニークで、本好きの興味を大いにそそります。イラストによるレシピ集も楽しく、本文とのギャップがどことなく不思議。

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