ハリウッド黄金期の巨匠と異色の天才監督キャメロン・クロウによる映画愛溢れる対談本

ワイルダーならどうする? ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話』 

 キャメロン・クロウ  訳:宮本高晴   (キネマ旬報社)

 十代でローリング・ストーン誌の記者になったという、神童キャメロン・クロウ。彼は長じて映画監督となり、“リサーチの鬼”と呼ばれる徹底した取材力を駆使して『ザ・エージェント』『あの頃、ペニー・レインと』等を製作。才気溢れる作品群で映画界でも一目置かれる存在となった訳ですが、そんな彼が、尊敬するハリウッド黄金期の巨匠、ビリー・ワイルダー監督の元を何度も訪ね、作り上げたのがこの分厚い対談本です。私は両監督の大ファンなので、対談本としては異例の厚みと、ぎっしり詰め込まれた文字の膨大さは、正に嬉しい悲鳴。

 若い頃のワイルダーは、百科事典並みの知識と鋭い機知、相手をぶちのめす毒気満載のシニカルなユーモア・センスで、尊敬されつつも少々恐れられていた雰囲気がありますが、ここに現れる最晩年の彼は、年老いてはいても舌鋒鋭く、常に頭脳が回転している様子で、キャメロン・クロウにとっても一筋縄では行かない相手である事が分かります。それでもぐいぐい読ませる力があるのは、やはり彼の、インタヴュアーとしての力量ゆえでしょうか。

 話題は、ワイルダー作品については勿論、近年の映画(日本映画についても!)や、ゴダール、ウディ・アレン、スピルバーグ、キューブリックなど、他の監督についても言及していて、いわば、彼が他の映画や監督についてどういう感想を持っているかが、よく分かります。もっとも、ワイルダー自身の映画製作にまつわる話も興味深く、彼の才能の秘密を垣間見るような箇所もしばしば。私にとっては読み出したら止まらない本ですが、映画に興味のない人にはちょっと薦められない内容かもしれません。当たり前ですが、出てくるほとんどの話題が映画に関するものですから。(残念ながら現在絶版の様子)

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