私の勝手なイメージではありますが、妖怪というともう民俗学に直結という感じで、他の分野への広がりは考えた事もありませんでした。それは『妖怪談義』の柳田國男の印象が強い事もありましたし、昔からよく読んでいた水木しげるの『日本妖怪大全』が、ページごとに妖怪の紹介と、各地に伝わる伝説や呼称の違いなどを図鑑のように構成しているせいもあったのですが、この対談集を読むと、妖怪はもっと広く文化や歴史にまで関連して研究されている学問対象である事がよく分かります。 何よりも、これだけの錚々たるメンバーが妖怪に深い関心を寄せていた事が驚きですし、私にとっては初めて名前を見るような学者さんも、様々なフィールド、観点で妖怪を研究している。予想以上に奥行きの深い世界だったんだ、というのが正直な感想です。そのため、難しい議論も頻出しますし、妖怪のみならず、怪談文学や伝奇小説、昭和史などにテーマが絞られている対談もある一方、唐沢なをきとの対談など、子供向け妖怪本に関するマニアックなうんちく合戦になっていて楽しい箇所もあります。それにしても、全編に渡ってぶちまけられる京極夏彦の博学ぶり、恐るべし。 特に興味深いのは、作家・大塚英志との対談にある、妖怪のほとんどが江戸期にキャラクターとして大量生産されていて、今でいうポケモンみたいな扱いを受けていた筈だという話。当時から、妖怪や狐狸の類いは子供ですら信じないという嘆きの声もあり、私達が「当時の人はこんな妖怪を信じていました」と認識するのは、今から三百年後の人々に私達が“ポケモンのキャラクターの実在を信じていた”と認識されるようなものだと。まさに目からウロコが落ちるような思いですが、こういう斬新な視点は本書のそこここにあり、必ずしも妖怪好きの読者にターゲットを絞らない、ユニークな対談本になっています。 |