著者の死後出版された、最初で最後の対談集。様々な場所で発表された対談を一冊にまとめたものなので、テーマがバラバラだったり、同じ話が何度も出て来たりと、通常の対談本と較べると本の構成としては一貫性に欠ける面もあります。著者のスタンスも完全に聴き手に回っているものから、インタビューを受けるような体裁のものまで様々ですが、共通しているのは“言葉”に対する問題意識。それは、著者の他の本でも既に知られている通りで、成長期に外国語(ロシア語)の中で育ち、帰国して後は日本語の習得に苦労したという経歴の持ち主ならではといった所。 特に大きく紙面を割いているのが、まず通訳仲間の田丸久美子で、数種類の対談が収録されています。彼女は米原万里の他の著書にも“シモネッタ”という愛称でよく登場する、イタリア語の通訳・翻訳者、エッセイスト。双方とも互角に張り合えるほどの弁舌(毒舌?)家で、通訳稼業の裏話を中心にくだけた雰囲気の楽しい対談になっています。もう一人、糸井重里との長い対談は人気サイト『ほぼ日刊イトイ新聞』に全19回に分けて掲載されたもので、コミュニケーション手段としての“言葉”について結構真面目な議論が交わされていて読み応えあり。 |