ひきこもりやイジメ、犯罪、プチ家出といった社会問題から、寺山修司やシャーマンの話など、人間の心の問題を扱ったエッセイ集。私は、この著者の他の本をほとんど読んだ事がなく、数少ない読んだ本も今いちピンと来なかったくちですが、本書に限っては、自分にとって、とても重要な問題が問われている本であります。 この人は、自身の凄絶な体験からか、社会的に疎外されやすい人、悪者に分類されるような人、極端に言えば犯罪者に至るまで、人間の“心”、ひいては“心の闇”に、目を向ける事ができる作家です。私は、あの秋葉原の痛ましい事件が起きた時、何だか他人ごととは思えないような気分を味わいました。勿論、殺人は絶対に正当化できませんし、犯人がやった事は断じて許されない行為ですが、彼が事件以前に書き綴っていたブログの内容は、かつて私自身がどん底の状態にあった時に言ったり書いたりしていた事と、ほとんど同じでした。私の場合は、周囲の人達や状況に恵まれたおかげで救われて今に至りますが、環境によっては自分が犯罪者の側に立っていてもおかしくなかったのかもしれない、と思う事もあります。 事件の時、テレビのコメンテーターが口を揃えて犯人を「理解できない」と切り捨てるのを見て、心に闇を抱えた人間の問題を、皆が自分の問題として考えられる社会にならない限り、こういう事件はなくならないんじゃないかと憤っていた頃、この本と出会いました。本書の内容は、私の心にストンと落ちました。他人を傷つける人間、暴力を振るう人間、その心とは、一体どういうものなのか。勿論、著者が簡単に答えを見つけ出せるような問題ではありません。ですが、少なくとも田口ランディは、敢えてそういう人間の側に立ってみよう、考えてみようとしている。ここが重要な所です。 そういった文章が、賛否両論を巻き起こすのは当然です。言い切り型の箇所も多い彼女の文章自体、肌に合わないという読者もいるでしょう。彼女が、悩める若者達から圧倒的な支持を得る一方で、同時に強い反発もよく受けるいうのも頷ける話です。しかし、ここで考察されている“社会”の姿は、私にとって、すっきりと腑に落ちる部分が少なくありません。いじめ行為のメカニズムなど、おどろくほど明快に分析されています。それでいて、ここが肝要ですが、この人の視線ははっきり前を向こうとしている。 彼女の夢の中に出て来た少年の言葉は印象的です「どんなものでも、自分の外からやって来るものは、全部プレゼントだ」。又、次の一文は、芸術や創作に携わる者にとっても、非常に重要なある側面を衝いていると思いますので、敢えて引用しておきます。 人間は弱い。恨みの力は人間を圧倒する。 恨む心と闘うほどつらい事はないかもしれない。長い長い不毛な闘いだ。 でも、イメージ、メタファー、神話、物語、そして自分以外の誰かの力を借りて、非現実の世界で死や殺人や恐怖と向き合い、そしてそれを乗り越える想像力を、私たちはもっている。 たぶんもっている。いや絶対もっている。誰でももっている。 私はそういう迷信を信じる。 この世の物語の力を信じる。 ありもしない魔法の力を信じる。 |