人気作家・村上春樹と臨床心理学者・河合隼雄による、タイトルそのまんまの対談集。私は、『ノルウェイの森』から入ったせいか、村上春樹という作家が苦手で、あまり読んできませんでした。単純に、文体が肌に合わなかったためですが、たまたま『海辺のカフカ』を読む機会があって、そちらは大変気に入ったので、ノンフィクションなども最近手に取るようになって、本書の存在を知った次第です。 河合隼雄は対談の名手でもあり、様々な人の対談相手としてしばしば登場しますし、自身も対談本をたくさん出しています。しかし本書は、どこがどうとは言えませんが、村上春樹色がより強く出た印象です。淡々としながらもどこか深い情感をたたえた語り口ゆえでしょうか。話題は、本書発表当時の最新作だった『ねじまき鳥クロニクル』をはじめ、自身の作品についての他、阪神大震災やオウム事件について、日本的「個」について、コミットメントの問題について、暴力性について、物語について、心理療法についてと、お互いのフィールドを往き来しながら、穏やかに、しかし深く、語られています。 対談の中で補足が必要な箇所については、それぞれが欄外にコメントを追記していて、こちらもかなりの分量に上ります。対談の内容は、私にも決して容易に理解できるものではありませんが、村上作品に興味をお持ちの人には是非お薦めしたい一冊です。もっとも、刊行は平成八年ですから、こういう本の場合、あくまでその時点での著者の考え方として読むべきものかもしれません。 |