“無類の面白さ! 一枚の絵から驚きの事実が明るみに出る、スリリングな美術エッセイ”

怖い絵』 (朝日出版社)

 中野京子

 美術書としては異例のベストセラーとなった本書。タイトルにはあまり興味をそそられなかったのですが、人に薦められて読んでみると、あまりの面白さにぐいぐい引き込まれ、今では続編のみならず、著者の他の本にも手を伸ばしております。

 いわゆる美術史的に流れを追う本ではなく、様々な時代、様々な画家の絵を各章で一枚選んでコメントしてゆくスタイルですが、タイトル通り、画家やモデル、時代の背景を探ってみるとゾッとするような事実が明るみに出るという図式で一貫しています。それが、本当に全部“怖い”かというと、その怖さの種類も様々でまあ解釈次第なのですが、怖いかどうかよりも、とにかく文章がスリリングで面白い、これに尽きます。知的好奇心をガンガン刺激する本です。

 著者の専門はドイツ文学ですが、歴史の造詣が深く、クラシック関係の本もたくさん出版しているように、音楽の知識も豊富。特に、ハプスブルク家については著者も多大な興味をお持ちらしく、他にも関連本が出ています。何よりも、ミステリ仕立てだったり、講義調だったり、文学的だったり、章ごとに様々なスタイルで絵に関する読者の興味を激しく喚起する筆力の凄さ。思わず圧倒されます。

 本書を読んだ直後、兵庫県立美術館で行われた著者の講演会にも行ってみたのですが、これが面白いのなんの。むしろ、講演の方が本の数倍面白いくらいでした。最初は淡々としていらっしゃるのですが、話題にのめりこむと口調に熱っぽさが加わってきて、聞いているだけで思わず引き込まれてしまう魅力があります。満場の聴衆からは爆笑もかっさらい、著者が講師を務めている早稲田大学の学生さんがうらやましくなりました。最近ちょくちょくテレビにも出演していますが、中野京子、今後しばらく目が離せない人物だと思います。

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