『生物と無生物のあいだ』でブレイクした分子生物学者、福岡伸一の対談集。この人は大変に文章が上手く、その見事な文章力には定評がありますが、テレビ番組への出演を見ても分かる通り、コミュニケーションの取り方にもバランスの良さがあり、本書には、彼の幅広い興味や学識、対話能力の高さが如実に現れています。対談相手への敬意を保ち、その分野への深い理解を示しながら、相手の主張を巧みに引き出してゆくその手腕は、学者・研究者のイメージを打ち破るもの。 目からウロコの先鋭的な対談内容も特筆もので、特に、ここ数年声が高まってきている環境問題の欺瞞に関する議論は興味深いものがあります。長期的な視野に立ってみて、本当に地球は温暖化に向かっているのか、二酸化炭素は本当にその原因なのか、世の中の流れに乗ってしまうと見過ごしてしまいがちになる隠れた問題について、本書は異議申し立てを行っています。私のような一般庶民にはなかなか真相を見極めるのも困難ですが、環境問題というのがとかく営利に結びつきやすい性質を持つ以上、私達も常に注意しながら、前提を問い直してゆく姿勢が必要なのかもしれませんね。 該当の話題は柄谷行人との対談にありますが、他の対談も知的好奇心を刺激するエキサイティングなものばかりで、主張の強い人が集まった感があります。福岡伸一も、ホストの役割を十二分に果たしつつ、持論である動的平衡の概念を随所に盛り込んでいます。尚、巻末には「著者、自著を語る」という、過去の福岡本や訳書について自身でコメントを付けるコーナーが設けられています。 |