“気持ちのよい家を建ててきた建築家夫婦の、眺めて楽しい作品写真集”

『手塚貴晴 + 手塚由比 建築カタログ』 (TOTO出版)

 夫婦で活躍する建築家、手塚貴晴、手塚由比の仕事を豊富なカラー写真や模型、図面で紹介する、私のようなプチ建築好きには実に楽しいヴィジュアル本。厚みがあって少し重いですが、大きさは小説の単行本よりひと回り大きい程度で手頃です。

 私が彼らの建築を知ったのは、実はテレビのバラエティ番組ででした。建築を学ぶ学生が尊敬するプロの名前を挙げ、教えを請いにゆくという企画でしたが、そこで紹介された「ふじようちえん」の設計デザインは、もう見た瞬間から素晴らしいと思いました。建物だけでなく、建物が演出する空間全体が素晴らしかったのです。中庭を囲んでぐるりと円形に建てられた園舎は、木を使った暖かみのある外観で、天井が低く、その天井の上も子供達が走り回る素敵なスペースになっています。木々は地面から天井を突き抜けて生えており、階下の部屋からはしごを上って天井の上に出られる窓もたくさんあります。

 この幼稚園は本書の最後に模型で紹介され、続刊の建築カタログ2で実際の写真もふんだんに収録。著者のコメントも実に興味深いものです。曰く、この幼稚園にはエアコンがない、仕切りもないので各クラスの喋り声やピアノの音なども筒抜けである。ところが、園児達はその環境のおかげで、必要な言葉や音を聴き取る能力に長け、取材にやってくるマスコミの人達は園児達の集中力の高さにみんな驚く、などなど。

 彼らの建築は、概してコンセプトが明確で分かりやすいものです。例えば「空を捕まえる家」「森を捕まえる家」「屋根の家」「展望台の家」「大窓の家」「回廊の家」などなど。文章は極端に少ない本ですが、最後に付けられたエッセイを読むと、建築に対する彼らの考え方がとてもよく分かります。特に次の一文は示唆に富んでいるので引用しておきます。

「(前略)技術の進んだ現代社会で、100年以上壊れない構造をつくることはさほど難しいことではない。戦時をくぐり抜けて生き残ってきた美しい京都の街並みを破壊したのは、日本人である。日本の伝統を愛でる心が敗戦を通して失われたとき、街への思い入れが死んだからである。日本の住宅はほとんどが30年程度でつくり直されてしまうが、これは戦後の現象である。住宅が使い捨てになるのは、構造が弱いからでも寒いからでもない。住み手にとって、戦後の住宅には「工夫して何とか住みこなしてみたい」と思わせるだけの思い入れが無かったのである。」

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