“涙なしでは読めない珠玉の二冊! 世界的指揮者が楽しい文章で綴る音楽奮闘記”

僕はいかにして指揮者になったのか』(集英社文庫)

僕が大人になったら 若き指揮者のヨーロッパ孤軍奮闘記(PHP文庫)

 佐渡裕

 オーケストラの指揮者というのは、その余りに多忙なスケジュールゆえか、本を執筆する人はかなり少数派でしょう。佐渡裕はしかし、今や国民的指揮者(というよりもう世界的人気指揮者)であるにも関わらず、既に数冊の本を出している上、どれも素晴らしい内容を持った名著である事に驚かされます。

『僕はいかにして指揮者になったのか』(ファンの間では『僕いか』と呼ばれているそうです)は初出が95年で、恐らく佐渡裕の名前が国内で認知されはじめた頃ではなかったかと思います。これはタイトル通り、彼がいかにしてプロの指揮者として食べて行けるようになったのかを語ったエッセイ。名指揮者バーンスタインや小澤征爾をはじめ、他の先輩指揮者との交流もたっぷりと描かれています。

『僕が大人になったら』は97年から2001年までの雑誌連載をまとめたもの。こちらは日記形式ですが、当時の彼は既に世界中の名門オケを振って回る生活を続けていて、そんじょそこらの日記エッセイとは内容が違います。まず、指揮者のこういう日記を読む機会は稀少ですし、クラシック・ファンなら名前は知っている世界の様々なオケの裏側、どういうスタッフや団員達がいて、どういう雰囲気のオケなのか、というのを知る機会も滅多にない事なので、それだけでもクラシック・ファン垂涎の内容と言えます。

 しかし、私がここで一般読者にお薦めしたいと思ったのは、二冊共、一人のアーティストが周囲の友情や愛に助けられながら成功してゆく人生物語として、珠玉の内容を誇っているからです。ユーモアと関西弁たっぷり(バーンスタインのセリフまで関西弁になっています)の秀逸な文章で綴られる数々の人情エピソードは胸を熱くさせるものばかりで、私はこれらの本を読みながら、一体何回泣いたかしれません。佐渡さんの才能も勿論特別ではありますが、彼の前に現れる人達がとにかくひたすら素晴らしいです。そして、それを全部覚えていてこうやって本にする佐渡さんがまた素晴らしいです。ここには普遍的な感動があるというか、クラシック音楽を知らない人が読んでも強く胸を打たれる本だと思うので、敢えてこのコーナーでお薦めさせてもらいました。

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